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赤い傘 シロクマ文芸部

赤い傘をさした女の子とすれ違った。
赤い傘とそれを見ている女の子の笑顔に、思わず足を止めた。きっとおニューなんだね。
振り返ると、女の子は傘をクルクル回し始めた。
まるでメリーゴーランドを見ているような気がする。
雨粒は驚いているのか楽しんでいるのか、キャッキャッと声をたてながら空に帰っていくようにも見えた。

雨の日に外を歩くのは好きではないが、こんな場面に出くわすとちょっと嬉しくなる。

私は人生で一度も赤い傘をさした事はない。
お婆さんと赤い傘。良いかも。
メリーポピンズは黒い傘だったかな。
空から彼女が舞い降りて来るような気がした。
もし出会えたら、尋ねたい事はたくさんあるのだけれど。

私が赤い傘をさしたら魔女に見えるかもしれない。
二人で空を飛ぶの。雨の生まれた場所に連れて行ってくれるかしら。
なんだか、目に浮かんできて思わず口が緩む。
本当に魔女になって、メリーポピンズと友達になりたいな。

気づかないうちに、私はクックと笑っていた。
気づかないうちに、女の子は遠くに小さく見えた。

さよなら女の子。
さよならメリーポピンズ。
また会えるかしらね、雨の日に。



了  469文字


小牧幸助さんのシロクマ文芸部に参加させていただいています。
今回は『赤い傘』から始まります。

#シロクマ文芸部
#ショートストーリー
#赤い傘