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ユウとスグル シロクマ文芸部

風車小屋の屋根で小さな風車カザグルマがクルクル回っている。思わず笑った。観光客を意識して建てられた風車、なかなかの出来だ。
同じ漢字なのに読み方で随分違う。風車フウシャ風車カザグルマ
お前と俺を見ているようだ。
俺たちの名前は優。お前はスグルで俺はユウ。お前は確かに優れているし、俺は優しいだけが取り柄、かな。
まあ、チビ助の頃から俺らは仲良くやってきた。25年は過ぎたな。

そのスグルが単身赴任でロンドンに行く。暫く帰ってこれない。
帰って来たら、それなりのポジションが用意されているのだろう。さすがだ。

俺は家業の文房具店で働いている。最近外国のお客が増えたので、仕入れる商品も変化していき、ワクワクする。商売の面白さも少しずつ分かってきた。

ロンドン行きを前に、スグルが店に顔を見せた。

「空港に見送りに行くからな」
「ユウ、頼みがある。その時美桜ミオを連れて来て欲しい」
「あ、あぁ、わかった。声をかけとくよ」

美桜は高校の同級生。スグルもボクも彼女が好きなのだ。お互い確かめ合った事はないが、そうであるのは何となく分かっていた。いつかこんな日が来ると思っていた。そうか、今か。ベストタイミングだな、スグル。


空港。
僕ら3人は早めにカフェで待ち合わせた。
美桜はその名の通りの桜色のワンピースに薄手の白いカーディガンを羽織っていた。いつもはスッピンなのに、薄化粧も施している。それだけで俺は気持ちが重くなった。
二人のこれからを見守る側が自分の立ち位置なんだと思った。


「美桜、久しぶりだな。いつもより別嬪だ。どうだ、僕の嫁さんになってロンドンに来ないか」
冗談めかして、スグルは言った。

「お生憎さま、私好きな人がいるんだ」
そう言って美桜は悪戯っぽく俺をチラッと見た。美桜の頬が桜色に見えた。
まさかの展開に、ドギマギする。

するとスグルは笑い出した。
「やっぱりな、ユウ、しっかりしろよ。僕としては残念無念だが。仕方ないから、青い目の嫁さんを連れて帰るよ」



スグルの言葉は嘘ではなかった。2年後、本当に青い目の花嫁を連れて帰ってきた。日本で結婚式を挙げるために。
俺と美桜にも招待状が届いた。二人で出席する。いや二人と……+αだな。




シロクマ文芸部、今週は『風車』から始まる小説、詩歌、エッセイなどです。小牧部長、よろしくお願いいたします。


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