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海のピ 毎週ショートショートnote
難破船にピアノが一台。
ピアノは注文主のところに届くことは無く、何年も海の底の船の中にいた。
ピアノは自分が楽器であることも忘れていた。
ただ、注文主の娘と新しい人生が始まることを楽しみにしていたことは覚えていた。
ピアノを梱包していた木の箱もいつしか無くなり、ピアノの蓋は開いて鍵盤が露わになった。勿論ピアノが歌うことは無い。
時々、海の生き物たちがピアノの周りを通り過ぎることもあるがそれだけの事だった。海の生き物にしてもピアノが何なのか知る者は無く、ただの変わった岩のようにしか思わなかった。
いつしか、ピアノ線も錆びていきピアノもその形を維持できなくなってきた。ピアノは黙って受け止めるしかなかった。
その頃には、ピアノは自分が楽器であったことを思い出していた。おぼろげにだけれど。
あぁ、一度だけでも歌ってみたかった。ピアノは泣いた。
その泣き声は波に運ばれて、洋上にいた者たちに届いたのだった。
ピピピとドレミの音階が一度だけ。
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たらはかにさんの今週のお題『海のピ』です。
裏お題『山のポ』は書けないと思いますが、表だけでも書けて良かったです。