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粒状の総料理長 毎週ショートショートnote

我が家は代々洋食屋。
祖父も父も最初は料理は好きではなかったとか。でも昔から店の評判は良い。僕もいずれは後を継がないとならないのか。だが本当は別の道に進みたいのだ。


ある日、父に呼ばれこんな話を聞かされた。
「この洋食屋には実は『粒状の総料理長』がいる。彼は今のところ親父と私にしか見えないし声も聞こえない。お前が彼を見えるように声が聞こえるようになれば、お前もこの店でシェフとならなければならない。宿命と思うように」

「はぁ?」としか言えなかった僕。

数か月後、その日はやって来た。解像度の低い粒状の画像を見ているような現実離れした男が見えた。
「私がこの店の総料理長だ」
「あなたは実体が無いのですか」
「無い。だが、これで総料理長の職から解き放たれる。お前が私の最後の弟子だ」

それから五年、僕は厳しい指導を受け、ひとかどの料理人となり数々の大きな賞を受けた。

それを見届けると、粒状の総料理長は画像がばらけるように空に消えて行った。


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裏お題、何とか書いてみましたが……。
粒状の総料理長とはいったい何だったのだろう。



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