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春の夢 シロクマ文芸部


春の夢に。ボクは春の夢の中に住んでいます。
そこにあなたが遊びに来たことがあるのですが、覚えていますか。
もう随分昔のことになりますね。あなたはまだ少女でした。
ボクはボクのままで、あの頃とちっとも変わってはいないのです。
もう一度、あなたが春の夢の中のボクに会いに来てくれるのをずっと待っていました。

桜の花が散っていくのを何度も数えました。
菜の花が風と内緒話をしているのも。
春風が夏の風にかわるのも。
何度も、何度もね。

あなたは、ボクのことは忘れてしまったのですね。
あんなに楽しかったのに。
  
ボクはずっと寂しかったのです。
仕方ないって諦めたいのだけれど。
それでも、もしかしたら、あなたがいつか思い出してくれるかも。
心の隅っこで思っていました。

ボクもいつか、あなたを忘れるのかな。

明日、あなたは嫁いでいくのですね。
おめでとうを言いたかったのです。

ボクは春の夢の中に帰ります。
あなたの額に口づけをして帰ります。
お守りのしるしです。

幸せを祈っています。春の夢の中で。
ずっと。




小牧幸助部長
今週もよろしくお願いいたします。


子どもの頃、二人で一緒に体験した楽しかった出来事。大人になって、一人は忘れ、一人は覚えていて。
それを知った時の寂しい気持ち。そんな気持ちをベースに書きました。めい


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#ショートストーリー