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焚火の写真

古い友人が訪ねて来た。

「誰にも秘密がある。私の秘密を君だけに教えようと思ってな」

そう言いながら、彼が差し出したのは一枚の写真。
暗い背景に火が燃えているだけの写真。

「焚火か?」
私は尋ねた。
「これが、なんで秘密なんだ?」

「しばらく見ていろよ」
私はじっと見つめた。

「あっ」私は、思わず声をあげた。
写真の焚火が燃えている。
まるで動画を見ているようだ。
炎に手をかざすと、温かい。

「なんだ、コレは⁈」
私は彼の顔を見上げ、返事を待つ。

「もう20年も前から、この写真の焚火は燃え続けている」

「なぜこんな物を持っている?」

「20年前、君と二人でキャンプをした事があった」
彼は独り言のように言う。

私には思い出したくも無い、苦い出来事。
私は彼の許嫁に横恋慕し、彼女を奪ったのだ。

あのキャンプの夜、私は彼に告白し許しを乞うた。

思い出した。
彼が返事の代わりに、焚火の写真を撮った事。
5年前、彼の喪中ハガキを受け取った事。

汗が…、止まらない。




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爪毛の挑戦状


炎は
過去も現在も、そして未来も
お見通しのような気がするのは
私だけでしょうか。