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オールドランド(ショートストーリー)

西暦2030年

政治のあり方も随分変わってしまった。
目下の課題は増えすぎた人口。これは世界的な問題。様々な要因が重なり、このままでは呼吸のための酸素さえ足りなくなるという。そして二酸化炭素の異常な増加。人類存続問題、ひいては地球そのものに致命的な影響を与えかねない。それらは急速に現実味を帯びてきた。しかも同時に食料の不足も大きな問題であった。

国ごとの目標人数を定められた。やはり高齢者に頭を下げるしか無い。どの国でも結論は同じであった。

我が国が年寄りの為に(?)打ち出したのは、年寄りに特化したオールドランドを日本各地に建設する事。国が直接運営する。
イヤ、普通に、年寄りの為の楽しいランドだと言うことになっているが、それが何であるのか、知らぬ者はいない。勿論、高齢者自身も。

そうして、この国家プロジェクトはいつの間にか実行に移されていた。

ある日突然招待状が届くと言われているが、招待状を本人以外見た者はいないらしい。いや、見ていないとしか言えなかったであろう。

営利目的では無いこの施設は65歳以上の人の為の娯楽施設。年寄り達に笑って楽しんで、この世を去ってもらう為につくられた。この世に思いを残す事なく立ち去ってもらうために、どのように事がなされるのか気になるが、彼らの閉じて二度と開かない口は何も伝えてはくれない。

安らかな最後であった事は、その亡き骸が無言で語る。

彼らは本当はどんな気持ちで招待状を受け取り、ランドに訪れたのだろうか。
自分達が犠牲になる事の不満は無かったのか。本当にこのような短絡な政策で良かったのか。

これからも、65歳になれば皆同じ道を辿るのか。誰かの為に犠牲になるのは仕方のない事なのか。疑問は残るが反対できない現実を 人々は噛み締めて生きるのだろう。65歳になるその日まで。

だが、その亡骸を荼毘に付すために、酸素を使い、二酸化炭素が増えていく現実をどう評価すれば良いのだろう。

政治家だけでなく、誰もが複雑な気持ちで見上げる空には、ほとんど見送るべき白い煙も現れないのだった。


65歳…
私はすでに…😄

このショートストーリーは、私がnoteをお休みする前に(九月) たらはかにさんの毎週末ショートショートnote のお題『違法の健康』を書きかけていたものをベースにして書き直したものです。