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夏の精 シロクマ文芸部

夏は夜にやって来る

月の明かりに照らされて
薄紅色の花一輪
庭の隅に隠れるように咲いていた

あなたの名前は?
「うふふぅ」
そう応じたのは
花ではなく
花の中にいた
小さな小さな女の子
あなたは花の精?
女の子はかぶりを振る

これ以上尋ねることは何もない
黙って女の子を見守った
ツバメが姿を見せるはずだと思う
見届けたいと思う

白々と夜が明ける
思った通りツバメが現れた
東の空に見事な曲線を描きながら

振り向けば
小さな女の子は
大きな女の子になっていた

ツバメを肩に止まらせて
女の子はスッと浮き上がる
私に小さな花束を落としてくれた
花束は私に届かず光の中に消えた 

けれど私の心に薄紅色の花が咲き始め
辺りが優しい金の色に染まっていく

少しだけ私は泣いた
彼女は夏の精だとふと思う

夏は夜にやって来た
私はひとりだけで
夏の精を迎えたみたい

私はもう一度泣いたけど
なぜ泣いたのか分からない


了 


小牧部長の今週の企画
『夏は夜』から始まる詩のようなショートストーリーを書いてみました。
よろしくお願いいたします。


#シロクマ文芸部
#ショートストーリー