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痺れる声(ショートストーリー)
最近、夜眠れない。
そんな私にピッタリだろうと貸してくれたアイテム。職場の同僚が心配してくれたのだ。
それの形状は目覚まし時計に似ていた。立方体の一面に、1から10までの数字が文字盤に円を形作って並んでいる。数字は何を表すのか不明。秒針のような細い針が一本だけ、不規則に動いている。
使い方は寝る時、枕元に置いておく。指示されたのはそれだけ。
深夜、目が覚めた。確かに2時間ほど眠ったと思うが、これだけ?とも思う。最初だし、多くは望まない方が良いのかも知れない。
時計状のものに変化は無い。もう一度布団に潜り込む。
やがて再び睡魔が……。
気づいた時、側に、布団の中に何かがいた。
それは男。ただ気配は感じるが実体は無い。
怖いとは思わなかった。夢だと思ったからだ。
「ねえ、君」
彼は囁く。その声に思わず息を飲んだ。最初、俳優のⅯの声かと思った。彼の低音の魅力と甘いマスクが脳裏に浮かんだほどだ。
「もう眠ってしまうのかい?勿体ないよ。寝物語でもしてあげよう」
彼の話は面白かった。しかし内容はほとんど覚えていない。
そのあと体が痺れてきた。
「か、体が痺れた」
「私に痺れたのだよ」
「違うわ、本当に体が……」
それからの記憶は無い。朝、目覚めた時にも少し痺れは残っていた。男の気配は無かった。
信じられないことに、熟睡した後の爽快な気分!何年振りだろう。同僚には感謝しかない。
出勤し、同僚に昨夜の報告をと話し始めた。すると彼女は私の話を遮った。
「あなた、何寝ぼけてるの?そんなモノ貸した覚えもなし、そんなものあるわけないでしょ!気のせいよ、あなた大丈夫?」
「?!」
帰宅して探したが、そんなモノはどこにも無かった。
だが、それからも度々俳優Ⅿに似た痺れる声は現れる。最近、彼の声に奇妙な色気を感じるのだが。それも気のせいだろう。
あゝ、でも、また、体が……
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