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毎週ショートショートnote

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たらはかにさんの企画です。410文字ほどの世界。お題は毎週日曜日に出されます。
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2023年10月の記事一覧

親切な暗殺 毎週ショートショートnote

今評判の暗殺KKに行ってみた。 私は誰からも必要とされてはいない。辛い事この上ない。それでも自分で自分を終わらせる事はできない。そんな時は、暗殺KKに私を暗殺してもらえば良いのだ。 報酬としての支払いが不安だ。 新人育成の練習台として私を使ってもらえたら格安になるだろうか。 合法的な本人の暗殺が許される時代に生まれてよかった。 受付の美しい女性が私をすぐに案内してくれた。 応接室で待っていたのは、親切そうな年配の男。 私の依頼は受けてもらえ、費用は思いがけない程の低料金で

信者ブラスバンド 毎週ショートショートnote

ここに一人の男がいる。 見目麗しい姿。 崇高な雰囲気を身にまとう。 彼は多くの者達を魅了する。彼の姿を一目見ただけで、このように彼の信者とも言える取り巻きがあっと言う間に増えていった。 ただ、彼の内面を探る者は無い。知りたいとも思わない。ただ彼の側にいたい。ただそれだけ。そして彼の喜びが私の喜び。なんでもして差し上げたい。そう思わせる男の魅力。 ある日、彼はおもむろに呟く。 「私を讃美してくれる私専属のブラスバンドがあればなぁ」 その甘い声にウットリするあまり、間違って聞こ

忍者ラブレター 毎週ショートショートnote

赤マントの男が白昼堂々と街を行く。 顔も隠さず、変装もしないその姿に、誰もが羨望とも不安ともとれるような複雑な視線を送る。 子どもたちは立ち止まり、彼に尊敬の目を向け黙って彼を見送る。 彼は現代忍術の免許皆伝を授かったばかり。その証の赤いマントをひらめかせ、目的の場所に急ぐ。 彼の最初の任務は、ある女の元に赴くこと。任務と言うのもどうかと思うのだが忍者としての最初のミッションなのだ。 そう、この日のために、やっと手にした免許皆伝。選ばれし者にのみに付与される特別の誉れ

枢軸マーガリン 毎週ショートショートnote

冷蔵庫内。 マーガリンは焦っていた。自分の賞味期限があと数日しかないが、まだ容器にかなり残っている。期限内に空になればいいけど。 そこに声をかけてきたのが氷温庫のハム。 「ボクなんかここに来てから、まだ1枚も食べてもらえないよ」 レタスとキュウリが野菜室からため息。 「ご同様だ」 二人の声がハモる。 笑い声をたてながら卵が乱入してきた。 「コレで食パンが賛成すればサンドウィッチができるな。それとマーガリン君には申し訳ないが、ここはバターさんにお出まし願いたいなあ」 「

数学ダージリン 毎週ショートショートnote

「次は数学だ、ジリン!早く教室に戻ろうぜ」 「オレ、エスケープするよ。ペコ、お前は戻れよ」 「ボクは数学の単位、ヤバイからな」 これが、ジリンの姿を見た最後だった。彼は神隠しにあったと噂が立つだけで、行方不明のまま10年が過ぎた。 そのジリンがヒョッコリ現れた。 早速、ペコもジリンに会いに行った。 「なんで、急に居なくなったんだ?」 「あの日、ペコと別れて直ぐに雷に打たれた。瞬間移動してインドのダージリンに行ったんだ」 「嘘だろ?それで?」 「インドの東ヒマラヤ山麓にあ

壁に少々らっきょう 毎週ショートショートnote

「らっきょ~らっきょう。らっきょうの甘酢漬けはいらんかね~」 今年も、らっきょう売りがやってきた。 待ってましたとばかりに通りに出る。 オジサンのらっきょうは、最高なのだ。私の好みにドンピシャ。在宅中で良かった。 「オジサン、くださいな」 そう声をかけた。振り返った人は初めて見る人だ。 「あ、いつものオジサンだと思ったのですが」 「あなたは、この赤い屋根にお住いの方ですよね」 「はい」 「私の父が、らっきょうを漬けていまして。私は息子です」 「お父様、お元気にされてますの?

スベり高等学校 毎週ショートショートnote

「浅野さん、転校してきて少しは慣れた?」 「先生、ご相談が」 「私の母は、私がどんな可能性を秘めているかわからない。それを見つけるためにと、たくさんの習い事を私にさせています。私には何の才能も興味もありません。習い事をやめたいのですが、母を説得できなくて困っています」 「なるほど、で、君自身は将来の夢があるの?」 「私は生物学者になりたいのです。人類にとって有益なバイオテクノロジーの研究をしたいです。 ですから今は、習い事を全てやめて、大学受験に絞りたいと思うのですが、習

腋の薔薇時計 毎週ショートショートnote

腋に挟んだ。体温計を。と思ったら違う。では温度計か? 「ちょっと、これどうしたの?」 私はいつもおバカなものばかりを買ってくる夫にイラついた。 「フフフフフ、温度計でも体温計でも無いのだ」 私はそれをじっくりと見た。 「ねえ、これ何なの?」 「フフフ、時計でしたぁ」 「こんな小さな時計、あるわけない」 細めのスティックに小さな円盤状のものが付いている。これが時計なんて。スティックに施された装飾が芸術的だ。薔薇の模様が美しすぎる。 「骨董屋で見つけた薔薇時計さ。昔、お

秋の空時計 毎週ショートショートnote

秋になると時々口ずさむ曲は『故郷の空』だ。 家を追われるように出て、私は故郷に一度も帰る事は無かった。そんな人生に重なる歌。 ある日、街で偶然タケに出会った。15年ぶりだ。 「タケ!」「マツ!」同時に叫んだ。 私達は手を取り合い再会を喜んだ。彼とは幼馴染み。 「元気だったのか?心配したぞ。なんで突然村を出た?」 「ずっと、親との折り合いが悪かったんだ」 「ご両親も、だいぶ歳を取られたぞ、帰って来いよ」 「村に帰っても仕事は無いしな。今更だし」 それでもタケに促されて一度