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毎週ショートショートnote

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たらはかにさんの企画です。410文字ほどの世界。お題は毎週日曜日に出されます。
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2023年6月の記事一覧

口移しサドル 毎週ショートショートnote

最近一緒に暮らし始めたボクのおばあちゃんはママのお母さん。かなり訛っている。ボクの事は「サドル」って言う。何度も「サトル」だって言ったけど。本人は「サトル」って言ってるんだってママは言うけど。ママは訛らないのになあ。 今日はボクの誕生日。五人の友だちが来てくれた。 プレゼントを貰ったり、ケーキを食べたらお決まりのゲーム。 途中から順番の事で揉めだした。 するとおばあちゃんが、僕らにマッチ棒を一本づつ配り皆んなに輪になって座るように言った。パパもママも、おばあちゃんも輪に加わ

生き写しバトル 毎週ショートショートnote

「おまえ、なんでオレと生き写しなんだ」 2匹のティラノサウルスは同時に叫んだ。 「真似すんな」また同時に叫んだ。 バトル開始。 テレビアニメを見ながら、ケンタはママに聞いた。 「恐竜って、大人になってから兄弟に会ったら、兄弟ってわかるの?あまり賢くないんだよね」 「さあ、パパの方が賢いから聞いてみたら?」 「さっき、パパに聞いたら、ママの方が賢いから聞けって」「そうだ、ママ。さっき公園に行ったら、綺麗な女の人と三歳くらいの男の子がいてさ、その男の子、ボクが三歳のときの写真と

 I 魚人(あいうぉんちゅ)毎週ショートショートnote

人魚は上半身が人間で下半身は魚、魚人はその逆。人魚は女性で魚人は男性と決まっている。 でも魚人は顔が魚というのは納得できない。人魚達は皆美しい。だから、人魚達は人間の男に恋をするのだ。自分達も魚の顔はもう嫌だ。 魚人も美しい人魚になりたかった。 ある日、一人の魚人が海の魔女のもとを訪れた。 海の魔女は人魚姫の事で、すっかり悪者にされ面白くなかなかった。人魚姫は納得して契約したのに、私はさんざんな言われようだった。 なので魚人の望みなど叶えてやるものか。そう心に誓い、彼らの

塩人(しおんちゅ)と砂糖人(さとんちゅ)毎週ショートショートnote

塩人、砂糖人という言葉は、元々、ある沖縄の病院で隠語として使われていた。塩の取り過ぎ、砂糖の取り過ぎはどちらも健康を害する。一般人にも、その隠語が広まった。 「ねえ、あなた、今回の健康診断の結果出たんしょ?」 「ああ、また塩人だった」 「実はね、私もまた砂糖人。結構、甘いもの控えたつもりだったのよ。がっかり」 「なあ、塩と砂糖のリスク足して2で割ったら、それぞれだったリスクが0になれば良いのにな」 「バカね、気持ちはわかるけど、塩って、致死量があるのよ。食事、お酒のお供にも

デジタル混入島 毎週ショートショートnote

「小さな離島で暮らすという事には、あなたが考えつかないような制約がありますし。まあ良くお考え下さい」 その島を管轄する役場の男はそう話した。そんなセリフはどうでも良い。彼はできれば私に移住して来て欲しくは無いのだ。という事は例の噂はあながち嘘ではないかもしれぬ。 ここ『裏の島』は表島の裏にある島だが、ほとんど知られていない。という事は密かに何かを成すためには魅力ある島だと言える。 同じ事を考える輩がいるとも思われる。もうすでに同業者が入り込んでいるかどうかの調査が私の仕事

アナログ巌流島 毎週ショートショートnote

巌流島と言えば武蔵と小次郎の決闘だ。この戦いには疑問点がいくつかある。その一つに、『なぜ二人は決闘しなければならなかったのか』と言うのがある。諸説あるが真実は不明。そんな映画の制作が決まり、正式なクランクインも近づく。 映画村では、今日もAIがAI助手とやりあっている。 「タイトルが『アナログ巌流島』なんですから、俳優はアナログ人間達を使うべきです」 助手は監督に詰め寄る。 「だが、彼らは昔のウンチクばかり述べて、こちらの希望どおりに動いてくれず面倒だ」 二人のAIは小競

名を自動転売鬼 毎週ショートショートnote

その名を児童転売鬼と言い、子どもを誘拐する鬼のような集団とか。 大勢の子ども達が誘拐されたが、警官は肩をすくめるだけ。手の出しようがないのか。 あざ笑うように今日も多くの子ども達が消えた。 成長した子ども達が見つかったとしても、誰も幼い頃の面影を残す者はいない。 また、親の事など覚えているはずも無い、ただ親には似ているだろう。 さらわれた子ども達は転売されると聞く。そう、売られたのだ。そうであれば誘拐と言うより、初めから売買されたと思われる。 親の気持ちを思えば…。 子

顔自動販売機 毎週ショートショートnote

乳母のリルは、僕が生まれた時から世話をしてくれている。一人に一体づつAI乳母が国から貸与される。母親と過ごすよりも長い時間を共にした。 そう言う事も配慮されて、AI乳母の顔の仕様は、自分の母親に少し似ていた。 母親の多くは仕事を持っており、自分達も幼い時はAI乳母に育てられた。AI乳母に対する信頼感は確かなものだった。 だが、15歳になったら、AI乳母は国に返却しないといけない。それを思っただけで、泣きそうだ。 そんな僕たちの思いが国に伝わった。  AI用の顔自動販売機な