マガジンのカバー画像

毎週ショートショートnote

225
たらはかにさんの企画です。410文字ほどの世界。お題は毎週日曜日に出されます。
運営しているクリエイター

2023年5月の記事一覧

鋼こむらがえり 毎週ショートショートnote

「鋼、お前知ってるか?小村が絵里の事、あっちこっちで好きだと言ってるぜ」 「健、お前な、今回のお題を知っててワザと言ってるだろ?」 鋼はムカつきながら応えた。了 なんて書けないしな。 ボクの今の楽しみは絵里ちゃんの笑顔を見る事。それだけで生きていける。 その時、絵里ちゃんがやってきた。通り過ぎるだけかと思ったら、足を止めた。そして何と僕に話しかけてきた、まさかだ! 「ねえ鋼、小村が絵里の事好きだと言いふらして困っているの。あなたの友達よね。止めるように言ってくれない?」

メガネ朝帰り 毎週ショートショートnote

「あたしってさあ、見た目はバカ女に見えると思うけど、本当のあたしじゃない。これもさあ、仕事。偵察なんだよね。アホどものダチでいる必要があるからさ。でも最近、アホの男の一人と……。偵察者失格だよね。反省してる。 仕事の時のあたしはメガネをかけているけど素の自分の時はメガネをかけていない。それをチェンジアイテムにしてるの」 そんなあたしのメガネが行方不明になってしまった。 レーズン色のフレームの両端部分にちいさな白い星のアクセントがついているAI搭載の相棒。 もしかして、あた

惰性のエッヘン開放 毎週ショートショートnote

気の小さな殿様がおった。 家来達は小さな声で話す殿に、もう少し胸を張って威厳をもって接して欲しいと思っておった。 殿も心の中では威厳をもって大きな声で話して「エッヘン」とも言ってみたかった。いつもいつも惰性で、心の中だけで呟いてきた「エッヘン」は溜まっていくばかりでな。 殿様はとうとう心の病気になったそうじゃよ。 名医と言われる者たちが入れ替わりお城に呼ばれたが、殿様の容態は変わらんじゃった。 そんなある日、お城に一人の女がやってきた。 医者の妻であったので殿の世話係と

火星の別件逮捕 毎週ショートショートnote

火星は太陽系から離れたいと思っていた。火星人と地球で言われていた生き物達が、やっとこさ姿を消したと喜んでいたら、なんと、いつのまにか地球人が火星を狙っているのだ。地球人達は戦争を止めないばかりが、地球を汚染し続けている。 ああ、地球人よ、来ないでくれ。ならば、私が太陽系を離れよう。 そうなれば、太陽系はバランスを崩して、さてどうやるやら。 その時地球の唯一の衛星である月が火星に声をかけた。 「火星さん、行かないで!どうしても行かれるなら、私を連れて行って。地球の衛星でいるの

三分豚足 毎週ショートショートnote

「ボスは多分短足だ。見かけはもうひとつだが頭脳は明晰、できるボスだ。 我々の仕事は表には出せない。ただ事務所の仕事だけは、きちんとやってくれ。カムフラージュのための表の仕事として、普通に事務管理をな。もちろん法律に関する駆け込み相談、まあ弁護士事務所として仕事は成り立っているようにな。些細な事務処理の不明瞭を指摘され、馬脚を露す事が怖いのだ」 そう言ってナンバー2は私の肩をたたくと事務所を出て行った。 給金は常識的な金額、裏の仕事のためのカムフラージュのための書類、帳簿を作

半分ろうそく 毎週ショートショートnote

「私達もあと数年で金婚式だわね」 彼女、美羽さんは、夫の勝さんにそう言った。 「あゝ、長かったような、短かったような」 「ねえ、私欲しいものがあるの」 「なんだい?」 「花が描かれた綺麗な花蝋燭が一本だけ欲しいの。それでこれを半分だけ、私の通夜に灯して欲しい。これが私の最後のおねだり、そしてお願いよ」 「わかった。で、後の半分は私のか?」 「ご名答」 「どっちが先でも、そうするよ」 「私が先だったら、あなた、再婚してもいいわよ」 「ほう、お許しはもっと早くに出して欲しかったな

風見鶏ローディー 毎週ショートショートnote

ある日、うさぎのウララはこの辺では見かけない鳥に出会いました。 「私はウララ。あなたは、誰?どこから飛んできたの?」 『ボクはニワトリ、ローディーといいます。歩いてきました。飛べないので』 「ケガをしてるの?」 『いいえ、ニワトリは飛べないのです』 ウララは飛べない鳥がいるなんて知りませんでした。 「ローディーさん、どこに行くの?この辺には、私達を狙っている狼やキツネ達がいるのよ。危ないわよ」 『良いのです。私は誰かに食べてもらいたいのです。そうすれば、きっと天国で飛べ

伝書鳩パーティ 毎週ショートショートnote

第三次宇宙探検隊は初めて銀河を抜け、未知の領域に踏み込む。30名のパーティは生死を共にする。二度と地球には戻っては来れないであろう事は容易に想像できる。 帰って来られる確率は10%あるか無いか。それでも彼らは地球人の第二の新たな母なる星を見つける事に使命と誇りを同時に抱えていた。出発の日を前に、会っておくべき人々と、密かに、快活に、別れの挨拶を交わしたのだった。 誰もが隊員達が無事に帰還すると思ってはいなかったが、それでも無事な帰還を祈っていた。 さて、宇宙船は地球を離れた

どこもお遍路 毎週ショートショートnote

世界の指導者にどういうわけか、まともでない者がいなくなった。 歴史的にも最初で最後の完璧な平和。それなのに喜びの事態であるにも関わらず世界の人々は退屈色に染まり始めた。退屈は時に良からぬ事のきっかけとなる事がある。それを憂いたのか世界の指導者たちは『聖地巡礼』を奨励した。奨励というより義務を課したといった方が良いであろう。 日本でいえば、一生に一度はお遍路に行かねばならない。御朱印帳は菊花紋章のついたパスポートのようなものを申請して手に入れる。もちろん、老若男女それぞれに事

心お弁当 毎週ショートショートnote

昔むかし、お転婆なばあ様と心優しいじい様がおった。昔のことなれど、じい様は優しいうえに料理上手だったそうな。 ばあ様は家事より山仕事に精を出し、じい様に家事と田んぼを任せ、忙しい時だけは二人で協力して働いた。長い間二人はこうして暮らしたと。 ばあ様はいつも山の祠に寄ると、じい様がこさえてくれた弁当の握り飯の一つを神様にお供えしていた。 ある日祠に行き、お参りしをしていると突然白い霧がばあ様を包んだ。 これまた突然神様が現れなさった。 「いつも旨い握り飯をありがとう。じ