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毎週ショートショートnote

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たらはかにさんの企画です。410文字ほどの世界。お題は毎週日曜日に出されます。
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2022年7月の記事一覧

チャリンチャリン太郎 毎週ショートショートnote

お貰いさんを見かける事があった。戦後、大勢の国民がまだ貧しかった頃には。 ボロボロの敷物の上に、ひどく粗末な着物を着て、髪は洗った様子は無く、顔はいつもる下を向いたままの彼。 彼はチャリンチャリン太郎と呼ばれていた。 彼の前に置かれた空き缶の中には、何枚かの硬貨が入っている。 空き缶に小銭を投げ入れられた枚数と同じ数だけ、チャリンチャリンと言うのだ。 通りすがりに、小銭を投げ入れる者をじっと彼は待っている。 私は一度だけ、缶に小銭を入れた事がある。 父と外出した帰り、

ビール傘2 毎週ショートショートnote

そこはひなびたというより、何か出そうな薄暗い宿だった。 でも女将さんは垢抜けた美人。 部屋に案内されると、私は一人旅の気楽さから、手酌でビールを飲みながら、山菜のツマミを味わった。 自家発電のためか、時々部屋の灯りは薄暗くなる。  やはり、出た。 これこそが、この宿を選んだ理由。 布団を敷いてある隣の部屋から、妙な空気が流れて来た。 私には霊感がある。 「どうぞこちらへ」 そう声をかけた。 スーッと襖が開き、姿を見せたのは一本足の、から傘オバケだ。 「こ、怖くな

ビール傘 毎週ショートショートnote

とあるマンションの一室。 「ねえ、あなた。ビールがさ、また値上げなんだって。毎度の事だけど。もうビール買うのやめようか。 なんでも、禁酒法が発令されるという噂もあるのよ。アルコールで人生を台無しにする人が益々増えてるそうだから。あなたの事、心配なの私」 奥さんは涙目だ。 その頃、斜向かいの老舗の傘屋の大将は、良からぬ事を始めていた。 店舗の地下にバーと、広い酒造庫をつくり、アルコール分一度以上のビールを許可なく製造し、アメリカの禁酒法時代を彷彿とさせる一時代を築こうと

ふりかえるとよみがえる2 毎週ショートショートnote

最近子どもを亡くしたキツネのおばさんは、子どもの匂いが残るこの場所を離れようと旅に出た。 最初に出会ったのは、お地蔵様。 おばさんは手を合わせる。 すると、お地蔵様がこう言った。 「私は九尾の狐だ。ワケあってお地蔵様にされた。どうか助けてくれ。礼はする」 「九尾の狐様でしたか、私は何をすれば良いのでしょう」 「私の後に白い花が咲いているだろ?花を絞って、私にかけてくれ」 おばさんは白い花の汁をお地蔵様にかけた。 すると、お地蔵様は九つの尻尾を持つ本来の狐の姿に戻っ

ふりかえるとよみがえる 毎週ショートショートnote

最近何かに見られている気がする。振り返っても誰もいない。 ある日、深夜にコンビに行った。 すごく炭酸水が飲みたかった。 僕はそのまま飲むのが好きだ。 帰る途中、例の気配を感じた。振り返っても誰もいないと思いながら振り返る。 いた。 それは、ひと月前に四十九日の法要を終えた僕のじいちゃんだった。 「じいちゃんだったんだね」 僕は駆け寄った。 「何度も振り返ったけど、初めてじいちゃんが見えたよ」 「夜にならんと見えんようじゃな」 「ばあちゃんは元気?」 「元気だよ

サラダバス2 毎週ショートショートnote

職員会議で子ども達の野菜嫌い問題が協議され、野菜園で収穫と調理を子ども達に体験させる事になった。 先ずモデルケースとして、ハルト君のクラスが選ばれた。 ハルト君のクラスは、早速、野菜園に貸し切りバスで向かった。 野菜の収穫だけだけれど、普段はしない姿勢はキツイ。 2時間程で収穫作業は終了。ハルト君達は収穫した野菜を見回した。 レタス キャベツ ズッキーニ セロリ パプリカにトマト、そしてキュウリ、ナス等。 作業中は気にならなかったけど、嫌いなものばかりだとハルト君は

サラダバス 毎週ショートショートnote

『サラダの家庭風呂、あなたの入浴に是非お使いください』 ラジオから流れるCM。 「風呂のCMなんて、ラジオで初めて聞いたよな」二番目の兄が独り言のように言った。 「この会社の名前も初めて聞いたな」僕もつぶやいた。 すると長男が眉をしかめ話し出した。 「今度、この会社の CMをうちでやる事になったが…、僕は辞表を出したくなったよ」 「どう言う事?」 「どうもこうもアホらしい。バスタブにサラダを山盛りに入れて、馬に食べさせる絵を撮れと言うんだ。 しかも予算不足で、俺

カミングアウトコンビニ2 毎週ショートショートnote

ハルト君は新しくできたコンビニに、タカシ君とメグちゃんと行った。 三人はボーナスお小遣いをもらったのでリッチなのだ。 お店に『カミングアウトコンビニ1号店』と書いてある。 カミングアウトって何? 三人は顔を見合わせた。 「お菓子はあるよ」タカシ君がお店に入り、二人も後を追う。 中は普通のコンビニと同じ。 三人でお菓子を手にしながら選んでいると、店員さんが話しかけてきた。 ハルト君に 「こちらのチョコの方がオススメよ、添加物が少ないの」 メグちゃんには 「そのプリンは

カミングアウトコンビニ 毎週ショートショートnote

ここのコンビニは特別なコンビニなんだよ。 表向きとは別に、秘密の部屋がある。当然、会員しか入室できない。 会員は特別のプリカを持っている。 店員は店内の様子を見て、客を素早くヒミツの部屋に通す。 そこで、何が行われているのか。 一人の男が会の下見がしたいとやって来た。 「なんと、M氏の紹介? それでは、ここで見た事は…、承知だな。入会希望者の下見という事は前例が無いが…。ま、どうぞ」 男はオーナーに案内される。 小部屋で、スーツの上に白い上っ張りと目鼻口用の穴の開い