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小説、エッセイ、俳句etc
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#たいらとショートショート

炭酸水 たいらとショートショート

「先にお飲み物お伺いしましょうか?」 「ボトルごと炭酸水が欲しいの」 「炭酸水だけで、よろしいのですか」 「本当はお水が欲しいの、でもそれだけ頼むわけにはいかないでしょ」 「はい、少々お待ちください」 彼は厨房に入ると、水と炭酸水、おしぼり、コップをセットした。 マスターは、注文はそれだけかと尋ねた。 「はい、今のところ」 マスターは炭酸水だけが好きだと言っていた人を、遠い昔知っていた。 興味を持って、彼女を見やった。 マスターは急ぎ足で彼女の席に行き「失礼ですが

真夜中の公衆トイレ #たいらとショートショート

トイレに行きたい。 真夜中の公衆トイレの前で立ち止まる。 薫は利用を躊躇した。我慢の限界が近いのはわかっている。店で済ませたかったが、変なおじさんが入ったきり出てこなかったのだ。 家まで歩けば30分、でも今日は酔っているからどうだろう。 何だか夜の公衆トイレは気味が悪い。が、考えている時間が惜しい。 薫は「えいっ」とばかりに、薄暗い公衆女子トイレに入って行った。 四つばかりある個室の三つの扉には『使用禁止』の紙が貼ってある。 残る一つの扉をノックする。返事は無い。