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#小説

【ピリカ文庫】 ラブレター

あなたは覚えているのだろうか。 私達の出会い。私達の結婚。私達の笑顔。そして私達の別れ。 走馬燈のように、私の周りを全ての出来事が光に姿を変えて回り始めている。 それは何の意味も持たないが、ただ私は見ている。 見ていたい。 あなたの顔を思い出したいのに、思い出せない。あれ程あなたを見つめていたのに。 あなたの声はどこかにいってしまって、私に向けられる事が無くなった時も、あなたの言葉をじっと待っていた。 でも、こんな時にあなたを、こんなふうに思い出すのは避けるべきだ。あなた

国道69号線(#2000字のホラー)

車に乗っていて、不思議な世界に迷い込む話は時々お目にかかるが、私の場合は少し違う。 我が家のマイカーは3年前に廃車にした。 私達夫婦は共に七十代を迎えるのを機に、免許も返納したが、交通環境に恵まれた土地に住んでいるので問題無く過ごしている。 夫婦のアルバムには、結婚してから五台の車にお世話になった事が明確に示されている。家族構成が変わる度にアルバムは増えていく。その頃は活気があり、車も張り切って私達を運んでくれ、子供達が巣立って行くと、車は歳を重ねた私達夫婦を柔らかい時間

金持ちジュリエット

その美しい娘、ジュリエットの家は大変な資産家だ。 しかし、彼女はこんな生活にウンザリしていた。先祖の残した資産でヌクヌクと生きていくだけなんて、何の面白みも無いではないか。退屈なだけだ。 彼女は自分の力だけで、人生を切り開きたかった。 彼女は決心した。家を出る事を。 つまり、家出。 軽く身支度を整え、地下室の秘密の通路から外へ出て行くのだ。家族以外知らない通路。 しかし、どうした事だろう。しばらく歩くといつもの通路が二股に別れていた。片方の道は土壁が壊れた事で現れた

神様のマッチ #ショートショートnote杯

僕はトシに電話した。  「なんだ、お前か。なんだよ」 トシの対応はいつも同じだ。 「今度のショートショートの作品募集、出すぞ、お前も出せよ」 僕らは、短い小説を書いては色々投稿している。 「えーっと、お題は何とか神様?なんちゃら?」 「そう、神様のマッチだ」 「ええっ??、ほんとかよ?俺の為のお題じゃないか、びっくりだなあ!もちろん書くよ、お前も頑張れ、またな!」 言いたい事だけ喋ると、トシは電話を切った。トシのテンションがなぜ突然上がったのか不思議だった。ま、いいか。