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ショートストーリー

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短い創作小説を置いています。
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#超ショートショート

永久就職の実態(SS 260文字)

昔むかし私達二人は、互いに際どい歳になったので自分にも世間にも妥協して結婚を決めた。 新しい家族として生活をスタートしてすぐに、彼は私にこう言った。 「なんで、私と結婚する気になったのか知らんが。なんで、私がお前と結婚する気になったか教えてやる」 「なんで?」 「黙っていたが、私は鼻が悪い。臭覚はかなりよろしくない。だからガス漏れが発生しても、気づかないと思う。食品が腐っていても」 「それが怖くて?」 「そう」 私は高性能のガス漏れ警報器として買い取られたらしい。

仮定の行方(超ショートショート)

螺旋状に存在する多種多様な世界は仮定の世界。あなたが今住んでいる地球と呼ばれる星も例外ではない。 地球という螺旋状の時空に、あらゆる仮定の地球が存在する。 しかしながら螺旋というカテゴリーそのものでさえ、仮定の産物なのかもしれない。   決してあなたの存在を否定するつもりは無い。 あなた自身が仮定の産物だとしても、あなたにとってあなたは確かに存在しているのだから。 仮定の現実は間違いなく、ここにある。 なんてさ、ほざいていた奴、最近見ないと思ったら、なんか普通に家庭人に

反射

レースのカーテンが揺れる。 窓の外に目をやれば、春の光が口笛を吹きながら通り過ぎてゆく。 そう、新しい口紅と春色のスカーフを買いに行こう。 私は、落ち込むのも早いが、立ち直るのも早い。 そして、旅に出るのだ。全てを捨てて。 イケナイあの人は、隣の部屋で眠っている。 さよならは言わないつもり。 ドアを開けると、眩しくて目を開けていられない。 爽やかな風が吹き抜ける。 これ以上旅立ちにふさわしい日は無いだろう。 明るい未来に向かって、私はドアを後ろ手に閉める。 少しだけ