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ショートストーリー

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2023年6月の記事一覧

友人(140字小説)

「あらあ、随分久しぶりね。あなた古希を迎えたんですってね。おめでとう。だけど、こう言っちゃあ何だけど、化粧くらいしなきゃダメ。 あ、私、来月、還暦なの」 久々に会った友人の弁。私の事、少しは覚えていてくれたんだ。 彼女は、女性に手を引かれて施設に帰って行った。 彼女は中学のクラスメイト。 🔷フィクションです。 学校のクラスメイトだった人は、まあまあ近くに一人いるだけ。 多くは生まれ育った福岡在住。 駅などでバッタリ学生時代の友人に出会うことは無い。時々そんな光景を見

残るもの(140字小説)

愛を失くしたら 心を満たすものが無い。 友を失くしたら 思い出が消えた。 体が重くなったら 夢を失くした。 笑顔を忘れたら 希望が消えた。 コロコロ回転しながら 落ちていく。 行き止まりはあるの? 目は回らないが 記憶が消える。 まだ失うものはあるのか。 私は誰。 ここはどこ。 立ち上がり考える。 考えるって何? 年齢を重ねると、得るものも多いが、失くしてしまうものは、はるかに多い。 人生は足し算と引き算。確かに掛け算と割り算はかなり少なかったような気がするが

香り(ショートストーリー)

この香り、何の花だったろう。ほのかな香り、消えそうだ。 そう思った時、目が覚めた。夢?香りだけの夢ってあるんだ。初めてだ。 でも、私は遠い昔嗅いだ事がある。誰かとどこかで。思い出せない。思い出せないのに涙が。 悲しい出来事があった?それとも嬉し泣き? わからないまま、紅茶を淹れた。 いつもはコーヒーなのに、なぜ紅茶を飲む気になったのだろう。飲みたいと思ってはいなかったのに。 アールグレイをミルクティーで飲んだ。 独特の味わい。イギリスの人が好んで飲むらしいが、私はダージ