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ショートストーリー

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2022年6月の記事一覧

(a+b+c)³ ショートストーリー

朝方、夢を見た。 中学生くらいの少年が現れ、「この問題、解ける?」と言って来たのは、優しい目をした少年だった。 差し出された紙を見たら、(a+b+c)³ と書いてある。  えーっ!? と思って数字を見ていると目が覚めた。 なんでこんな夢を見たのだろう。 テスト中に白紙のままで焦っている夢を見た事があるけれど、類似的なもの? まあ夢だし、夢に意味は無いよね。そう思った。 でも、この夢は夢で終わらなかった。 その日の夜、またあの少年が私の枕元に現れた。 その少年を私は少し

廃屋の鏡(夏ピリカ応募作)

昔は立派な邸宅であった事が、容易に想像できるその廃屋は、流れゆく時の中を漂う。かつての面影は敷地面積の広さからも思いを馳せる事が出来る。 今はただ、危険を伝える看板と厳重な金網等に囲れた孤独な佇まい。 100年も前の建物と思われるこの廃屋は、富豪の城。そう呼ばれていた、華やかで美しく優雅な邸宅であった過去を覚えているのだろうか。 この廃屋には、嘘か誠か一つの不思議が伝わっている。 大勢の召使いに傅かれて住んでいたのは三人の娘と、その両親。 三人の娘、皆美しく人目を引い

パプリカ (ショートストーリー)

口笛って、人の口が笛になるので世界一持ち運びに便利な楽器だって、誰かが言っていたなあ。 最初に人間が口笛が吹ける事に気付いた人は誰なんだろう。それはいつの事だったのかな。気がついた人は驚いたかな。喜んだかな。 実は私、口笛が吹けないの。何度も練習してみたのに無駄だった。 綺麗な曲、口笛で吹いてみたいな。 音が出る事もあるけど、メロディーにならないの。 口笛が吹けなくては、お話しにならないよ。 でも、でも、アイツは、きれいな音色でメロディを奏でる。いつも得意げに、わざわざ私