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ショートストーリー

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2022年1月の記事一覧

試験

「えっ?、私、死ぬの?」 彼女がそう問いかけたのは、目の前に死神としか見えない男が現れたからだ。 「そうだ」男は短く答える。 「私、病気でも無いし、不慮の事故にも遭遇しそうにも無いわ。場所も相手も間違えてない?」 「間違いでは無い」男はまた、短く答える。 彼女は組んでいた足を組み替える。 そして、不敵な笑みを浮かべ、男に話しかける。 「あなたさぁ、まだまだ若いわよね? 死神としては、まだペーペーでしょ? 会社で言うところの新入社員よね?」 図星だ。 彼は答えない。

にっちもさっちも

小綺麗な部屋。  ここは準備室というか、楽屋と言うか。 若い女が二人、静かに時を過ごしている。 片方の柔らかい眼差しの女が、燃える瞳を持つ女に話しかける。 「この冬は、いつもと違って心が騒ぐ」 燃える瞳は少し意地悪な気持ちで、こう言った。 「あなた、冬彦に恋をしてるでしょ?」 「何でわかるの?」 柔らかい眼差しは狼狽える。 「あなたの前任者にした事を、冬彦はあなたにもしたって事よ」 そして、更に続ける。 「彼は自分の舞台、出演時間を延ばしたいのよ。少しでも

月明かり

深まりゆく夕暮れ。 小学校の一年生の教室。 今日の日直は黒板を拭かずに帰宅したようだ。明日、先生に叱られるぞ。 黒板には、綺麗な数字が1から10まできちんと並んでいる。さすが、一年生の先生だ。美しい数字。 そこに現れたのは、ご存知、人骨の模型。保健室とか理科準備室に一人ぼっちで立っている骨格標本。 人骨模型は、迷いもせずに教室に入ると、窓際の一番前の席に当たり前のように着席した。 動く度に骨がカタカタ音を発したが、勿論誰もその音を聞く者はいない。 淡い月明かりに

産婆さんを呼びに

<古い記憶より> こんな事ありました もう、60年近く昔の話です。 私は小学3年生で、妹は1年生。母は臨月を迎え、今日か明日かと言うタイムリミット。父は出張中で不在。 11月14日朝方3時頃、私は母に起こされた。 「赤ちゃんが産まれそう、産婆さんを呼びに行って来て」と。 電話もない時代、用があれば出向くしか無い。 当時は入院出産と同じくらい、自宅での出産もまだ多かった。 この日が来るのは私もわかっていたが、まさかこんな時間になるとは思わなかった。 母が産気づいたら産