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「N/A」

「N/A」年森瑛


なんか、思春期と言えばそう片付けられるのかもしれない自分の中の葛藤やナイーブな気持ちをリアルに描いた作品だと感じた。主人公の心情が痛いほどわかった。もう少し年をとってから読み直したら、「ああ、こんな時期もあったな」と思えるのかもしれない。でも今の私にはダイレクトに刺さる小説だった。


ただ、がまくんとかえるくんや、ぐりとぐらのような、お互いの中だけにある文脈を育んだ、二人だけの唯一の時間が流れる関係性を人間の世界で得るのは難しいということも、年を重ねるにつれて理解しつつあった。別々の場所で暮らしながらも、一緒にごはんを食べたり、どこかに遊びに行ったり、見返りもなくやさしくしたり、それだけのことを続けるのには、人間なら恋愛感情が付随していないといけないようだと察していた。

p29

本や映画、歌詞などでこんな素敵な人間関係が描かれる。私は昔からそういう関係に憧れていた。
でも20年近く生きてきて、まだまともに恋愛もできていない。そんな関係は現実に存在しないのか、それともそんな風に想える人に出逢えていないだけか。どちらだろう。


保健室の先生の後ろの壁に貼られた、日に焼けて赤色が薄くなった人権週間のポスター。多様性を認めてみんなで助け合いましょう。地球の上で手をつないで綺麗な円を描いて等間隔に点在する人たちの絵。決まった場所で手をつないだまま一歩も動かない人たち。
まどかもこの中の一人になった。踏み出したら輪っかの形が崩れてしまうから、この属性から出てはいけない。やさしく手をつないでくれた人をがっかりさせないように、黙って笑顔で収まっている。
本当はどんな属性にもふさわしくないのに。

p68

「やさしく手をつないでくれた人をがっかりさせないように」の部分が刺さる。
私は縛られるのが嫌いだ。同調圧力も苦手。
でも同時に共感能力が高いせいか、周囲の期待や望みも感じていた。それを無視できずに、そして一人になるのが怖くて、「みんな」と同じことをした。ぼんやりと違和感は感じていた。でもどうすればいいのかわからなかったんだよ。手を振りほどくのも怖くて、でもずっとこのまま動かないのも窮屈で。
大学生になってやっと、もっと広い世界があることを知った。今自分がいる場所だけが世界のすべてではない。何にも囚われることなく、自由に生きていけたらなと思う。


かけがえのない他人にそばにいてほしかった。まどかのことを、ただのまどかとして見てくれて、まどかへの言葉をくれる他人がほしかった。そういう他人のことを、同じように大切にして、やさしくして、死ぬまで楽しく一緒にいたかった。
そんな人は、どこにもいないのかもしれない。

p69

すごくわかる。唯一無二の関係を築きたい。
そう考えるけれど、ふと、私は今誰かのことをこんなふうに思えているだろうかと思った。
私だって、「あの子はこうだから」「どうせ誰も私のことなんかわからない」とか決めつけていないだろうか?ないとは言い切れない。
私だって、周りの人のことを"ただその人"として見れているわけではない。私と関わったときと、他人から聞いた話からその人の像を創り上げて、自分の都合で判断してるのでは?
人のことちゃんと見ようともせずに、自分のことは受け入れてほしいなんて、ちょっと傲慢だったかもしれないと思った。
"かけがえのない他人"を探す前に、まずは自分が誰かの"かけがえのない他人"になりたい。

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