ガルバンゾで、がんばるぞ?!

 もう何年も前、初めて「ひよこ豆のカレー」を食べた。小麦アレルギーのお子さんを持つ知人、手作りのカレーだった。美味しかった。
 ひよこ豆。名前と形状の一致に、思わず笑みがこぼれた。スパイシーな味の中に現れる、ほの甘さに心が和んだ。
 お気に入りの食材となったが、その頃の私は仕事に忙殺され、料理どころではなかった。シュフは亡くなった夫が担っていた。何故か、リクエストすること無く、過ぎてしまった。
 夫が亡くなり、仕事もキリが付き、晴れて無職、24時間完全おひとり様(別名、孤独死予備軍)と、なった。当たり前のことだが、自分の生命維持の為には、全てを自分でやらなければ、どうにもならない。同時に、何にどれだけ時間をかけようが、文句をつけて来る存在も無く、制約される仕事や約束も無い。最初は戸惑ったが、慣れればそれなり。そして案外、忙しく、思っていたより、面白い。
 そんな生活が始まってしばらく経った頃、さまざまな食材を取り扱うお店で、ひよこ豆を見つけた。「一晩水に浸してから茹でる」とあった。今なら出来る、そう思い、買うことにした。
 説明書に倣って茹で、初めて食べた時と同じく、カレーに入れてみた。おひとり様なので、レトルト、だったが。
 予想していた通り、ハマった。以来、カレーには必ず入れている。
 洋名が「ガルバンゾ」であると知った時、笑った。「がんばるぞ」に似ている感じがしたから(まるでオヤジギャグ)。
 茹で上がるのに1時間位かかるので、出かける予定の無い日の前日、寝る前に水に浸す。翌朝、真っ先に火にかける。その後、珈琲を立て、香りを楽しみ、ゆっくり味わいながら待つ。仕事に追われていた頃には想像もつかなかった、至福の時。夫と二人、肩を寄せ合って暮らしていた頃とは、色合いも趣も異なる幸せ。ただし、彼のいない寂しさは、それとは別物。

 最初に食したカレーを作った彼女も、あちらの世界に旅立ってしまった。

 まだ、こちらに遺されている私は、ひよこ豆のカレーを作る度に「『ガルバンゾ』を食べて『がんばるぞ?!』」と、心の中で呟く。無理をしない頑張りなんて、あったかなと、思いながら。
 


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