見出し画像

2022/6/14『緑子(みどりこ)』

神は語らねばならない
わたしがそれを聞くために
わたしはまた語らねばならない
神がそれを聞くために
百日草がいくつか咲いている
高く低く、赤く桃色に
少し離れ、少し近く
くっきりとそれらは見える
それは神の言葉である
それ以外のものではない
認識される世界の、ただ認識される世界の
あたたかな午後の、明るい太陽のその光のふりそそぐ
神は語ろうとする
神はただひたすらに、それを語ろうとする
わたしは聞く、ただひたすらに光の中の言葉を
一羽のハイイロサギがいつもの田んぼに立っている
神は語ろうとする、その一羽の鳥の内部から
離れているものは、その確実な羽の色は
風に吹かれる、羽は語ろうとする
田にひろがるあたたかな水の面から
神は語ろうとする、ただ静かに語ろうとする
一本の木の去年の葉は落ち
枯れ葉は雨に流されて
その木は新しい葉に覆われて
神は語ろうとする、ただ語ろうとする
聞く耳を持ち、わたしはその言葉を聞く耳を持ち
歩いている、午後の光の中を
あまりにそれらはあきらかである
あまりにわたしはあきらかである
草は伸び、様々な草は伸び
樹々は枝を広げ、様々の樹々はその枝を空へと広げ
虫たちは飛び、花は香る
神は何を語ろうとするのか
わたしは何を語ろうとするのか
緑子が陽に焼けた肌を見せ
緑子は空へと昇って行く
あまりにそれは美しく
わたしは見る
緑子は空へと昇って行く。