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2022/11/17 『立方体人間』

部屋の隅に立方体人間がいる
部屋の角にぴったりとはまり込んで
静かに時間を食んでいる
それを無視してわたしは本を読んでいる
しかし読書によって時間は過ぎ去るとしても
立方体人間はそこに居続ける
昼食の時間になり、わたしはキッチンでインスタントラーメンを
鍋でつくる
器に移して胡椒を振りかけたところで
彼が側に立っていることに気づいた
「俺にも食べさせてくれ」
と彼は言った
わたしは少し考えた
ここで彼に甘いところを見せると
彼はいつまでもわたしの部屋に居続けるのではないか
それは考えものである
しかし彼を追い出すようなことはあまり良いことではない
何故なら、彼は幸福をよぶものとも言われているからだ
そこでわたしは
ラーメンを少し別の器に分けて
彼に、「食べろよ」と言った
彼は嬉しそうにしてさっそくそのラーメンを食べた
それからまた部屋の角にいって座り込んだ
そうしていると彼は全く部屋と一体化していて
じゃまではない
わたしはまた本を読み始めた
「その本は面白いのかい」
ふと彼が聞いて来た
「まあまあかな」
わたしは答えた
「本なら俺の中にもいろいろあるよ」
と彼は言った
本が彼の中にあるとは、どういうことなのであろうか
彼は腹のあたりをごそごそとしてから
一冊の本を取り出した
「これなんかいろんな意味でいい本だよ」
と彼は言った
わたしはその本を観察した
そしてネットでその本に関して調べてみた
するとその本は希少価値の高いもので
ネットで売ればそこそこの値段になることを知った
「君はこの本を僕にくれるんだね」
「そうだよ」
「と言うことはこの先、僕がこれをどうしようとかまわないのだね」
「そうだよ」
わたしはこの本を売った
そして思わず大金を手に入れた
わたしは彼にもう少し美味しいものを食べさせた
「これはおいしいね」
彼は喜んで色々な食事をした
〈わたしは福の神を手に入れたのだ〉
この先どのような未来が待っているのか
それを考えるとわたしは楽しみなのだ
部屋の角には今も彼がいる。