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2022/6/13『温子ラブ』

ピーターはふつつかな帽子をとり
挨拶をする勲章の授与式の午前
ノルマンディーの海岸の
アホウドリの何年も思考する
パピヨンのパラソルの砲塔の崩れ去る日々も
「温子」と呼ぼうとする、鶏のような声で
ふくらむ・もっと・われわれは時代をもんでいる
夾竹桃の花の満開である
けばけばとしている宇宙の物質的豊穣ではなく
たどたどしく橄欖石の包帯を巻き
事務室の明るい窓のカーテン、透かし模様
キッチンから蒸発する宇宙船の窓
「温子」から届く手紙にはいつも胞子が
付着しているマロン・マスカット・マーメイド
この椅子に座り、わたしの話を聞け
白鳥座のぼんやりとかすんでいるのはわたしだ
ミッチェルは言うだろう「変光星のわがままの」
連星・冷静・談笑・胸囲・モモンガ・光のままに
そうなれば、ここを離れることは、さぞかし
つらいことだ、何よりも、河の水が溢れて来る
「温子」と布団の中に入ったのはもう何時間も前
そこは宇宙であった、そこは海底であった
息をひそめ、ただ運命のこよなく愛する、淡いひかり
星々は銀河をめぐる
海獣たちが木綿の糸で歯を磨く
ハバロフスクの公会議事堂はトドに占拠されているらしい
もうわたしはその場所へ行かないだろう
ケラチンの膜がわたしを保護する
「温子」の膜が高速道路を覆っている
そんなバカなとわたしは思う、そして手は帽子を掴む
温度によって彼女の表情は変化する
まるで熱帯のヒル
血を吸う。