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2022/7/14『宇宙の少女』

カケスが啼く
今日から丸坊主になる少女
真理のために寺へ行くと言う
それはいいことだと、わたしは言う
カケスが啼く
その前にわたしと月が見たいと言う
今夜、満月の夜に
沼のそばの安いホテルで月を見たいと言う
案内するロボットについて
沼に一番近い部屋に案内される
カケスが啼いている
「ここからは『沼』がとてもよく見えます」
とロボットは言う
確かにここからは見えるものと言えば
沼のただただ動かない水面だけである
少女はわたしの腕を抱いて
「はやく月が見たい」とつぶやいた
けれどここからは太陽の光は見えない
空はいつものようにどんよりとしているばかり
カケスが啼いている
わたしは夢を見た
それは少女が天女のように
宇宙を飛んでいる
ただひたすらに
宇宙を飛んでいる
そして目覚めると
月が昇っていた
暗い、ただただ暗い沼の上に
満月がおごそかに、ある
ロボットがやって来て
「沼の岸から船を出して
 船の上で
 鯉の料理を
 食べましょう」
と言う
少女はすでに岸から手をふる
わたしは下駄をはいて
少女のところへと歩き出す
船はまったく音をたてず
沼の上をすすんでいく
少女は大きな鯉にとがった包丁を立てる
鯉の眼はぬるぬると光る
「ここが一番おいしいのよ」
とわたしにさしだす
月の光がそのひときれを
照らし出す
わたしは少女を食べるように
そのひときれをたべる
「君は何を求めてそこへ行くのか」
「満月ですね」
「君はわたしを愛しているのか」
「わたしをたべますか」
「君はいったいだれなんだ」
「死にたいのですか」
・・・・
わたしは船の上から少女が天に昇るのを
見た
そして
わたしは
・・・・。