ビリー・ジョエル@東京ドーム2024に行った

2024年1月24日、ビリー・ジョエルが東京ドームで一夜限りのコンサートを開催してくれた。

来日公演が決まった時、母が興奮した様子で「ビリーが東京に来る!」と連絡してきた。一度は生の歌声を聴いてみたいと昔から言っていたので、これはまたとない機会だと思い、すぐにチケットの抽選に申し込んであげた。一番高い席は10万円だったのでさすがに日和って、たしか2~3万円くらいの席にした。
数週間して無事にチケットが手に入ったので、インターネット音痴の母のためにホテルや飛行機も手配した。チケットは3枚買ったので、いろいろ込みで15万円くらい吹っ飛んだ。ビリージョエルが来日できるのは年齢的にももう今回が最後だと思ったし、ある意味母への親孝行みたいな気持ちもあった。

私自身はビリージョエルの大ファンというわけではないが、子どもの頃からの思い出深いミュージシャンではある。
両親はビリー・ジョエルとか、カーペンターズとか、ABBAとか、あの世代の人たちが好きな洋楽が例に漏れず好きで、車の中ではいつもそのあたりのCDが流れていた。当時我が家はトヨタのノアというミニバンに乗っていて、たしか最大8人くらい乗れたと思うが、3列目のシートはいつも座席を上げた状態で荷物置きになっていた。私は母の仕事の都合で、ほぼ毎日、1時間半くらい車に乗せられる生活をしていた。その間、荷物置きになった3列目で地べたに座り込み、大きなスピーカーに耳を当てて、全身でビリー・ジョエルの音楽を聴いていたのだ。心臓に響くドラム、自然と一緒に体が動いてしまうベースライン。5,6歳のわたしにとって、初めて触れるバンドミュージックはあまりにもカッコよかった。歌詞も何を言っているか意味不明だったので、カタコトのカタカナで聞き取ってメモしたりした(絶対に見返したくない)。

『Uptown Girl』という曲がある。
軽やかなドラムとコーラスで始まる爽やかな印象の曲で、これも車の中で好んで聴いていた。「アップタウン」とは、"山の手"とか"高台にある住宅街"の意味で、いわゆる「高級住宅地」のことを指し、要するにお金持ちのお嬢ちゃんへの恋について歌っているらしい。
ところが幼稚園児の私は「アップタウン」を「アップダウン」と取り違えており、女の子が上下する曲(???)だと本気で思っていた。まぁ上下するってことはこう、跳ね回ったり、気分が上下したりして、やかましくてお騒がせな女の子の曲なんだな、曲の雰囲気もそんな感じだし。

・・・といった風に、ビリージョエルのベスト盤を聴くと、ノアの3列目で音楽にノッていたあの頃の自分をよく思い出す。

特に好きだったのは『Allentown』だ。幼稚園児がピックする曲にしてはかなり渋いと思う。もちろん当時は歌詞の意味も全く分かっていなかったが、母が「アレンタウンはかつて鉄や石炭の採掘で栄えた町で、それを題材にした曲」ということだけ教えてくれた。機関車の汽笛のような音で曲が始まり、歌のうしろでカーン、カーンと鉄を打つような音がしきりに鳴っている。このカーンカーンという痛くて冷たい音が、幼稚園児の自分をなんとなく切ない思いにさせてくる。例に漏れずノアの三列目で、いっちょ前に物思いにふけりながら、何度も何度もリピートした。
このアレンタウンが好きすぎて、中学生くらいになってBUMP OF CHICKENの「ギルド」を知ったときは、偉そうに「アレンタウンのパクリやんけ!」と思ったものだった。(ギルドは名曲です)

そんなビリー・ジョエルの東京ドーム公演。
1週間くらい東京に滞在する予定だった母は、紆余曲折あってコンサートの日だけ東京に来ることになった。一時はコンサートに来られないかもと思っていたので、無事に見せられて本当によかった。もともと比較的騒がしい母だが、コンサート中は見たことないくらいさらに大騒ぎしていた。曲が始まるたびにご丁寧にいろいろと解説をしてくれた。私はレモンサワーでいい気分になっていたのでその蘊蓄を話半分で聞いた。母が楽しそうで本当によかった。
御年74歳のビリー・ジョエルは、我々の想像を遥かに超えてパワフルだった。「この曲はキーが高いからなぁ…声が出るか心配だなぁ…」のご丁寧な前フリの上で原曲キーで高らかに歌い上げたり。ブルースハープを構えたときは「Piano Manが来る!」って観客みんな興奮していた。アンコールでやっていた『we didn't start the fire』って曲はベスト盤に入ってなかったから私は知らなかったけど、ビリーがギターを持っていてめちゃくちゃかっこよかったな。バンドメンバーもすごい。さっきまでサックスを吹いていたはずの女性が突然メインボーカルになって一曲丸ごと歌い上げたり(しかもステージを端から端までダッシュしていた)、と思ったら打楽器を抱えていたり。あとで調べてみたら、このバンドの女性もそこそこのご年齢だったよう。50歳,60歳になってもあれだけ音楽に魂を込められたら、どんなに楽しく幸福か。なんだか自分の未来にも少し希望が持てるようなコンサートだった。

ビリー・ジョエル、再来年くらいにもう1回、日本来んかな。

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