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きっと彩度の低いパステルカラーの世界

 2022年に入って、家族で決めた事がある。「1時間同じ空間で本を読もう。」

 子供達はそれぞれ13歳、11歳となり自分の部屋で過ごす事が多くなり、以前に比べて会話も少なくなった。一緒にハイキングに出かけたり、週末は遠出をする事もあるけれど、もう少し繋がりが欲しかった。夫がそう提案すると最初は渋々応じたものの、今では時間になると子供達はクリスマスに大量に買ってもらった本を手に取ってキッチンへ集まってくる様になった。キッチンとはおかしな場所かと思われるかも知れないが、我が家は何故かキッチンがリビングよりも広く、お茶もお菓子もすぐ手に届くので読書にはもってこいの場所である。

 元々、読書が好きな為、サンフランシスコの日本人街に行く度に『紀伊國屋書店』で大量の本を買う。それをおよそ3日に1冊の割合で読み進めていき、昨日、ここ数年で一番心を揺さぶられた本に出会った。

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 それがこちら、『ザリガニの鳴くところ』。舞台は1960年代のノース・カロライナ州の湿地。内容が面白いのは勿論だが、情景の描写がとても美しくて頭の中で思い浮かべるだけで心を奪われてしまった。今年、映画化されるようだが決して蜷川実花のようなパキッとした色使いで派手な演出ではなく、ドラマ『青い鳥』の様な儚げなパステルカラーの様な世界なんだと思った。どんな映像になるのか楽しみだ。作者は元々、動物学者で野生動物の生態系や自然に関する知識があるのは勿論だけど、それをこんなにも美しく表現できるのは才能があってこそだろう。私は、普段英語を喋っている時に「日本語では大体自分の言いたい事は思い通り説明出来てると思う。情報もある程度は的確に伝達出来てると思う。英語を喋ってる時はただ絵文字だけを与えられて、それを組み合わせて可能な限り伝えてる気分でもどかしい。」だなんて思っていたけど、何と驕った考えだったんだろうと思った。私はこんなに美しく情景を伝えた事はない。

 肝心な内容も、幼い頃に家族に見捨てられたった1人で生きていく事になった「カイア」の人生を通してアメリカの1960〜70年代の市民の暮らしの様子、今よりもあからさまな人種差別の実際なども垣間見れて面白かった。カイアの成長、時間の経過と共に彼女の人生にも変化が訪れる。カイアには受け入れる、受け入れないの選択が何度かあったけど、世間から隔離された彼女にはどれが最善の選択なのか知る術はなかったのだろう。

 物語は青年の死体が発見される事から始まるが、「あいつ殺されてなくてもカイアの人生だけで読み応えは十分にあったよ。」と思った。


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