見出し画像

【イベント・レポート】CMづくりからコミュニケーションの 極意を学ぶ「広告小学校2019」開催

「広告小学校」は、CMづくりを通して「考え方の考え方」や伝わるように伝える方法を学ぶ教育プログラム。昨年に続き、この日だけの高校生向け特別授業を2019年8月3日に実施。関西など遠方からの参加者を含む計21名の生徒たちがアドミュージアム東京「クリエイティブ・キッチン」に集合。白熱した授業がスタートしました。

画像1

講師の小金井市教育委員会教育長の大熊雅士先生
10年以上「広告小学校」の教材制作にも携わっています 

アドバイザー

アドバイザー役は、左から電通のCMプランナー・福永琢磨さん、クリエーティブディレクター/アートディレクター・田中元さんと中央区立明石小学校指導教諭の宮内有加先生

訪日外国人に「東京のよさ」を伝える15秒CMを作る

通常、学校で行われている「広告小学校」プログラムは、いつも一緒に過ごしている同じクラスのメンバーと学ぶものですが、今回、参加者はほとんどが初対面。参加理由も「広告に興味があるので」から「夏休みの自由研究として」「自分を表現する手段を学びたくて」まで幅広く、バックグラウンドもさまざまな参加者たち。しかもわずか3時間でチームごとにCM(劇)を制作・発表まで行うという内容で、ハードルはかなり高めです。参加者には、CMのテーマ「海外から来る人に『東京のよさ』を伝える」が、しかも「ガイドブックやネットで散々紹介し尽されていることをまんま広告にしない!」という条件付きで提示され、それに関するリサーチなど事前に「宿題」が与えられていました。なかには「生まれも育ちも東京で客観的に考えられず、鳥取に一人旅して比べてきました!」という高校生も。準備は万端のようです。

初めに事務局からの挨拶等に続き、早速、階下の常設展示スペースへと高校生を案内。「いつもは受け手として接している広告を、例えば『このアイデアはどこからひらめいたんだろう』」など、今日は作り手の視点で眺めてみてくだい。何かヒントが得られるはずです」と声を掛けました。しばし館内を巡った後、いよいよワークショップの開始です。

画像4

まずはウォーミングアップ。時代を象徴する広告作品をじっくり鑑賞

画像5

気になる広告を簡単に閲覧できるデジタルテーブルに釘付け

CMから“考え方の考え方”を学ぶ

まず大熊雅士先生が今回の授業の目的をこう説明しました。「ブームを起こし時代を作り、ひいては文化の一部にもなったCMは、つまりは大勢の心を掴んだということ。そこには自分のアイデアを人に伝えるための優れた手法が隠されている。だからCMの考え方・作り方を学んで、新しいことを考えるとき、人に何か自分の意見を聞き入れてもらいたいとき、それを使えるようになってほしい」。
そう、最終的に学んでもらいたいのは、将来の社会生活にも役立つ、考え方や相手の心に刺さるコミュニケーションの方法なのです。

その後、5つの班に分かれ、自己紹介を行い、早速、肩慣らしに知っているCMを順に挙げていく“CM山手線ゲーム”に挑戦。この辺りから、参加者たちの硬かった表情も緩み、ようやく笑顔が見られるように。
ゲーム終了後、名前の挙がったCMをなぜ覚えていたのか、をみんなで挙げてみます。すると印象的なキャラクター、耳に残るキャッチコピーなど、幾つかのポイントが浮上。“相手に伝わる”テクニックが少しだけ明らかになりました。

画像7

覚えているCMから見えてきた、相手に「伝わる伝え方の極意」

アイデアを拡散し収束させ、そして絞り込む

ここから実践的なCMづくりに突入です。まず事前の「宿題」でやったことから一旦離れ、付箋に1枚ずつ、東京のよさをできるだけ多く、もう一度書き出していく〝100本ノック〟から。「1枚書けたら自分は天才と褒める」と大熊先生。そして「漠然と考えずに、人なら、場所なら、文化や歴史だったら、と自分の中で視点を移動させてみよう」とさまざまな視点からアイデアを出すことを促します。
一方、田中元さん曰く「考えずに書く。笑われるかも、と思ってもとにかく書く」。福永琢磨さんも続けて「いいか悪いかは後で判断」。アドバイザーからも次々と檄が飛びます。会場は一気に真剣モードに。

画像7

100本ノックに真剣に取り組む。こちらの班は快調な滑り出しのよう

こうしてみつけた東京のよさから、各自が自分のお勧めを5つピックアップ。班で順番に発表していきます。そのときのルールは「相手の意見を絶対に否定しない」そして「理由を聞く」。心の中で「なにそれ」と思っても、ニコッと笑って「いいねー」と言って話を聞く。そして「それならこれはどう?」と自分の意見を重ねる。これも画期的なアイデアを生む秘訣の一つなのだとか。
やってみると確かに随所で笑い声が響き、一気に話が盛り上がります。「電車が時間通りにくる」「アニメの聖地が多い」「飲み屋横丁がある」……、次々とユニークなアイデアが聞こえてきました。

画像8

「それ、いいね!」の合いの手が、アイデアを自然に発展させる

そして次のステップは、集まったアイデアの共通点を見つけグルーピング。グループ毎に名前をつけて(コンセプト)、グループを一つ選び、コンセプトが一番伝わるのはどんなことか、さらにアイデアを重ねていく。つまりCMづくりに向けてどの道を進んでいくか、伝えたいことを決定するプロセス。まさに、ここがヤマ場でとても難しいところ。だから、広告のプロにもたくさんのアドバイスをもらいました。
「居酒屋」に注目したあるグループは、「何が伝えたいのか」まだ漠然としたその理由を探るため、居酒屋を形容詞で表してみたり、ほかに類似の場所やものがないか考えたり。あるいは別の班では集まった要素を擬音語で表すと……など、休憩を挟みながらも、議論はますます白熱していきます。

画像9

各自出したアイデアを集め、紙上でグルーピング。タフで悩ましい作業

感性を働かせ、アイデアをCMに

すると、ここで大熊先生からアドバイスが。「いろいろ迷ったら、もう一度原点に立ち返ってみる。今までの頭と違って、これからは感性を働かせてみる。『それは本当に外国人の心を動かすのか?』——感性に問いかけ、確かめ、テーマを1つに決めたら、今度はそれをどう伝えるか、頭を切り替えてアイデアを出していく。ここでも効くのが「いいね!」攻撃。すると不思議に、作るべきCM像が見えてくるものなのです」。

画像10

多様な材料を揃え、CMの小道具作りの準備もOK

さて、仕上げはCMのストーリーづくり、ワークシートに絵コンテとセリフを書き込んでいきます。田中さんからは「CMは最後に商品が出て終わることも多いけど、今回はそこもみんなで作らなくてはいけない。だから締めのコピーを決めてから、逆算してそこに至るまでのストーリーを考えてみて」と、プロならではの貴重な助言。短い15秒で伝えたいことが伝わっているのか? ある程度、ストーリーをつくったら、実際に劇の練習を重ねながら内容を詰めていきます。「こうしたらどう?」「この方が伝わるよ!」意見を言い合いながら、どんどん盛り上がっていきました。
一方、大熊先生は「締め切り時間を過ぎたアイデアはただのゴミ!」とのプレッシャー。ギリギリまで演技やディテールを磨き上げ、ついに本番のCM劇発表を迎えました。

画像11

プロのアドバイスを受けながら発表前の休憩時間もリハーサルを繰り返す

5つの班の発表をのぞいてみよう

では、ここからはでき上がった5つの班のCM「海外から来る人に伝えたい東京の魅力」を駆け足で見ていきましょう。
トップバッター、1組目のテーマは「まぜまぜなまち、東京」。これはテーマを一つに絞りきれなかった過程を逆手にとって、例えば江戸切子でワインを飲むなど伝統と海外のミックスも“何でもあり”の東京の懐の深さをキャッチーな擬態語で表現したものでした。

画像12

1組目「まぜまぜなまち、東京」
多様なクロスオーバーシーンを演じて東京の魅力を表現

2組目は「みんなの“好き"があふれる町!! Tokyo」がコンセプト。ジャニーズ、メイド、ゴスロリ……、人の趣味嗜好は千差万別。それぞれの“好き”を追求した趣味人を集め、エンターテインメントシティ、東京をアピールしました。

画像13

2組目「みんなの“好き"があふれる町!! Tokyo」
最後は「あなたの好きを東京で!」と呼びかけた

そして街を構成する人に着目した3組目。「たくさんの顔を持つ東京」というアイデアを、憂鬱な朝の通勤電車から一転した夜の華やいだ居酒屋シーンで、街のあちこちで日々繰り広げられるドラマで再現。キャッチコピー「人の色は街の色」は高校生離れしているとアドバイザーも驚いていました。

画像14

3組目「たくさんの顔を持つ東京」
電車のつり革とビールジョッキを兼ねた小道具使いにも工夫が

一方、4組目は、上から紐を垂らして画面を2分割。落とした財布が戻ってくる東京と、置き引きに要注意の海外の街を対比して表現。あえて「ぼーっとするなら東京へ」と、外国人の方々に意外な東京の楽しみ方を提案していました。

画像15

4組目「ぼーっとするなら東京へ」
画面分割して対比することで、差異を強調

ラストを飾った5組目の班が掲げたキーワードは、なんと「変人」。アニメおたくやタピオカ中毒など個性ある人々を“Henjin”と称し、東京の多様性を紹介。誰もが街に溶け込み“素”でいられる場所として、締めに「Welcome to the HENJIN city in Tokyo」の掛け声とともに、旅行客を誘いました。

画像16

5組目「変人」
変人=Henjinとした言葉遣いにセンスが感じられる

CMづくりで学んだ宝物

5つの班とも15秒の時間を有効に使って、きっちりと完成度の高い発表を披露。参加した高校生たちも、心地いい達成感を味わっているようでした。さて特別授業を締めくくるのは、講師やアドバイザーのコメントです。
全員から、すべての班が「伝わる」発表になっていたことに賞賛の声が上がりました。その中で、福永さんは「今日、“東京のよさ”という課題に向き合い、真剣にアイデアを巡らせた経験こそが宝物。学んだ技をこれからぜひ応用して使ってみてください」とコメント。
続いて田中さんは、今回高校生がつくったキャッチコピーの素晴らしさに触れ、「クリエイティブは、まず自分が楽しんでやることが大切です」とクリエイティブの心構えを披露。「広告小学校」の生みの親でもある牧口征弘(電通・広報局長)さんは、丁寧に各班のよかったポイントに触れた後、改めて作業プロセスも含め、全体的なクオリティの高さを絶賛しました。

画像17

渾身のアウトプットに、プロからも驚きの声が

そして、最後のトリはもちろん、大熊先生です。半日で一気に駆け抜けた授業を振り返り、当日実践した「アイデアを広げ、分類・整理して、そこからさらに広げ絞り込む」と今回使った「パー・グー・ギュー発想法」をおさらい。このプロセスを身につければ、これからさまざまな場面で応用できることを紹介して締めくくりました。

画像18

生徒も先生もスタッフも、濃い時間を過ごしました

コマ犬教室2

広告小学校とは?

(株)電通の社会貢献活動「広告小学校」は、子どもたちがコミュニケーション力の基礎となる「発想力」「判断力」「表現力」「グループによる課題解決能力」を培うプロジェクト。2006年の開始以来、カリキュラムを提供した学校は、全国・海外 350校、約4万8千人の児童・生徒たちが体験(2019年3月現在)。名前は「広告小学校」ですが、実際は小学校のほか中学・高校・大学の授業にも取り入れられています。これまで、キッズデザイン賞、グッドデザイン賞、メセナアワード優秀賞など、数々の受賞歴があります。
広告小学校公式サイト: http://www.dentsu.co.jp/komainu/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?