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【かたわれ時。冨樫優花、薄明光線】

 思えば、冨樫優花を初めて観た印象もそうだった。
 「舞うように踊る女の子」

 − 重力とか空気抵抗って、あの子にはないのか?

 そのパフォーマンスに集中して見惚れてしまえば、流れているはずの曲や歌声、全ての音が消えてなくなるような感覚。

 -僕は今、何を見ている?

 普通、人間が動けば靴とステージの擦れる音だったり、飛び跳ねたなら着地音とかするものじゃないのか?
 
 一体、僕は何を見ている?
 いま、僕は何を見ている?
 
 「舞うように踊る」

 そんな瞬間をその日、僕は生まれて初めて見た。

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【タイトル未定】:(タイトルミテイ)は、北海道札幌市を拠点に活動する日本の5人組女性アイドルグループである。2020年4月11日、「何者かになろうとしなくていい。 何者でもない今を大切に。」をコンセプトに始動。 メンバーは阿部葉菜、冨樫優花、七瀬のぞみ、見上佳奈、谷乃愛。

 その日の帰り道、僕は急いで親友(きゃみさん)にLINEをした。
「地元アイドルのライブに初めて行ったのだけど、すごい子がいたんだ」

− とても綺麗に踊るんだ。”ヒノカミ神楽”だよ。(きっと彼は鬼滅の刃なんか見ていないかもな、とは思いながら) ダンスというより円舞の型をステージで舞ってる感じに近いかもしれない。この世のものとは思えなくて。それがとてつもなく美しい -

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「めちゃくちゃ歌もうまい」
「あと、顔もすごく可愛いんだよ」と付け加えた。

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 アイドルのオタクなら誰もが言いそうな事。
 きっと皆、自分の推しにはだいたい同じことを言う。なのに僕はあえてわざわざLINEを使ってまで言わずにはいられないほどの、それほどまでに特別な宝物を初めて見つけた気がした。

 今まで何人かのアイドルを見てきた中で、LINEをしてまで話を聞いてもらいたいと思った存在は初めてだと思う。

 きゃみさんは僕の唯一の親友で、いつどんなLINEをしても「へえー、面白そう!」と返してくれる。ちゃんと興味を持って話しを聞いてくれる。僕をインディーズアイドルのライブに初めて連れて行ってくれた人だ。

 僕はきゃみさんにどうしても<冨樫優花>のことを伝えたくて、YouTubeの動画を添付までして送り付けた。
(そしてちゃんと見てくれるのが、きゃみさんの最高に素敵なところ)

「ねえ、左端のカチューシャしてる子を見てて!ほんとうに凄いから!」
そしてその時、送りつけた動画がこれ。
(せーやんさんもいつもありがとう!)

 ダンスが上手だな、と思うアイドルはたくさんいる。きっと子供の頃からダンス教室に通ってきたり、レッスンや努力をたくさんしてきたのだろうなと思うような、圧倒的なパフォーマンスを見せるアイドルも知ってる。
 でも僕は冨樫優花を見て、ひとつの疑問を抱いていた。

 「僕が今まで見てきた”ダンス”って何なんだ?」

 冨樫優花の見せる”それ”はとても高い技術に裏打ちされた、間違いなくハイレベルなダンスパフォーマンスであり、誰が見ても”ダンスの上手な人”として映える。
 完全に完璧に洗練された冨樫優花の動きは、本当にただひたすら純粋なまでに美しい、とさえ思う。
 それ以外、僕には言い表す言葉がない。

 -ただ

 ただ、僕にはそれがダンスというより「巫女が神に祈りを捧げるような」ある種の願いを込めた「舞い」のように見えたのだ。
 何を想う?何を願う?その静かな視線の先にあるものは何なのだろう?彼女はステージで踊りながら、どんな景色を見ているだろう。

 僕はそれをずっと考えていた。

 もしかしたらもっと上手く、その瞬間を伝えられる言葉があるのかもしれない。僕がそれを表現する言葉を知らないというだけで。
 ただ、それほどまでに冨樫優花が踊ってみせた身体的な表現手法は、僕にとって全く未知なものだった。

 「指先から世界を−」

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 いつかの彼女が呟いた言葉。

 ステージで歌い踊る彼女と、特典会でのどこか人見知りな彼女はいつも別人のように思える(良い意味で言ってる。そして僕はそのどちらの彼女も好きだったりする)

 ただ、ステージで歌い踊る彼女のそれはいわゆる「憑依系」と呼ばれるタイプや、エモーショナルな魅せ方をするタイプとはまるで性質が違うもののように思う。(これはもう僕の想像でしかないのだけれど) 

 <(他者との)コミュニケーションが(当初はメンバーとさえも)苦手だった>

 と過去のインタビューで話したこともある彼女は、ステージの上にいる時だけその小さくて細い指先をフロアに向かって伸ばす。

 光があなたに届きますように、

と祈りを捧げるように。
 
 「今ならきっと上手く伝えられるから-」

 僕にはあの日、彼女がそんな事を願いながら踊っているように見えた。

 遠い空だって 君は光り続けていて
 どこかで僕が挫けそうでも
 「いつか いつか」
 って聞こえるように

 ~ アルバム「青春群像」収録:【 いつか 】 ~

 -薄明光線-

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 これは彼女達(タイトル未定)の歌う楽曲の名前でもある。
 デビューから1年を迎えたグループは、【青春群像】と名付けられたデビューアルバムの発売と同名ツアーを東京・名古屋で行い、5月30日に札幌でツアーファイナルを迎える。

 コロナ渦でデビューした彼女達にとっては、決して順風満帆な1年ではなかったかもしれない。
 それでもデビューから過ごしてきた彼女達なりの成長を重ねた1年間の集大成となる瞬間。どんなファイナルを迎えるのか?
 
 ただひとつ。
 ただひとつだけ確かなことは。

 相も変わらず、僕は冨樫優花に

 「今日も可愛い」

 って言いに行こうと思っている。

<薄明光線>

(はくめいこうせん、英語: crepuscular rays)
太陽が雲に隠れているとき、雲の切れ間あるいは端から光が漏れ、光線の柱が放射状に地上へ降り注いで見える現象の俗称。

 この話しの続きはそれから。
 そして

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 きゃみさん撮影にて。

 

 余談ですが彼女は以前、特典会で

 「あの、、タメグチとかの方が話しやすいですか?これで大丈夫ですか?」と聞いてくれた事がある。
 「え??? あ、いや別にどっちでもいいけど、でも冨樫さんタメグチで「うっそ、それマジヤバくね?」とか言わなそう」と答えたら

 「言わない言わない、、」

 と少し笑った。
 あの、、そのまま居てください。

 そのままこれから先、どんな風になろうと僕はきっと「今日も可愛い」って言いに行きます。

 光の射す方へ。
 例えそれが薄明光線のような儚いものだとしても。

 そこにあなたがいる限り

 そう思っています。

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