ここは医科大学附属病棟

 小学4年生の時に1回目の入院している。夏休みになると小学生の入院が増えるここは、整形外科病棟。僕は、今年も1ヶ月間ここで入院をする。2回目だから. 食事の片付ける場所、ゴミを捨てる場所、夜に看護士さんが巡回にくる時間、入院生活をしていく上で少しでも快適になる方法を少しは知っている。他の小学生からしたら少し先輩顔である。ここの入院病棟の部屋は、子ども部屋と大人こそ部屋に分けられる。そりゃそうだ。付き添いのお母さんが朝から夕方までいて、子どもはゲームし放題。苦情がくるのはみえている。でも、僕はなぜか今年も人数の関係で大人部屋。

僕のベットの横は、入院している頑固お爺さんと優しいおばあさん。「あなた、お寿司買ってきたよ」と会いにきても「わしはいらん」という。「じゃー私がたべよ」。次の日は「あなた、美味しいパン買ってきたよ」もちろん「わしはいらん」といい、「じゃー私がたべよ」

入院棟のベットはカーテン1枚で仕切られているので結構、声が聴こえてくる。「宮田さ〜ん、処置の時間ですから来てくださいね〜」看護士さんの話は素直に聞くお爺さん。カーテン1枚、はじめは聞こえないように小声で話すが、1週間、部屋を共にしていると段々と声も普通になってくる、家族じゃないけど家族みたいに、声は聞こえてくるが気にならない。でも、聴こえてくる。

「わしはもう癌の治療はせんぞ。薬で、お前の声がわからんようになるとかなん」宮田さんは癌だと知ったら。右横の50歳ぐらいの山田さんは、いつもひとりで誰も会いにこない。まえの柳さんは、宮田さんと「わたしも癌でして」と話をしている。小学生の僕はここにいるんですけどと、カーテン越しに思いながらぜんぶ聞こえるんです。

夜、看護士さんの巡回の目を盗んでゲームをしていると、看護士さんが何人も入ってきて右横が騒がしい、「急いで」「山田さ〜ん、大丈夫ですか」夜中の3時。山田さんが運ばれていった。カーテンの隙間から運ばれていく山田さんの体が見えたけど怖くて目をそらした。次の夕方には、新しい患者さんが入ってきて、各ベット挨拶に回っている。看護士さんもいつもの感じ。いつもの医科大学病棟。

入院している子どもは、みんな仲が良い。朝の処置が順番に終わりお昼になると一階の待合ロビーにゲームを持って向かう。5人、6人とみんなで移動!「子ども医学部長の回診かよ」と、誰かは心の中で突っ込んでいることだろう。目指すは、Wi-Fi。ロビーはフリーWi-Fiに接続できるので。これでオンライン対戦ができる。どこな場所が一番通信しやすいかも知っている。仲がいいけど、毎日ひとりは退院していく。

こうすけとは、入院した時がいっしょだったし、年が近かったので夜にこっそりWi-Fiを求めて病院内を探検したり、看護士さんに叱られたり、一緒にベットで話したり、明日、岡山県に飛行機で帰るそうだ。恒例のベットに集まっての記念撮影。一人ひとりにお手紙とお菓子を渡すのも恒例行事。こうすけには、昨日、夜中に書いた手紙を渡す。

クーラーの効きが悪い8月15日、「暑いわ〜」とベットでゲームをしているといつもの会話が聞こえてきた。「わしはいらん」、あーいつもの会話ね〜と思ったら、カサカサとカーテンが揺れる、「大福嫌いが〜」宮田さんだ。やばっ始めた話しかけられた〜。「うんうん」と首を振ると、「じゃーやろ」と大福をもらってしまった。おばあさんはニコニコ笑顔だった。それだけでは終わらず、「暑かったら、うちわやろ」とヤクルトスワローズのマークの入ったうちわをくれた。「ありがとうございます」

次の日、起きたのはお昼過ぎ、朝ごはんも下げられ、机にメモが「今日はシャワー13時30分ね」やばい、あと5分しかない。これを逃すと、2日体を洗っていないことになる。シャンプーにタオルに、パンツに、うちわを袋に入れてカーテンを開ける。太陽の日差しが眩しい。今日も暑そうだ。部屋を出るときにベットを見ると宮田さんがいない、荷物も何もない。退院したのかな?看護士さんに怖くて聞けない。最後に宮田さんに話したことは「ありがとうございます」。小学生の僕はカーテン越しに、宮田さんのベットから聞こえてくる、口喧嘩の声や、治療のこと、治らないこと、妻の声が分からなくなるのが嫌なこと。生きる死ぬそんな会話をきいてきた。そして、退院の時にみんなの手紙に書いたことは「楽しもう」。

大阪に戻ってきた日は最高だった。びっくりドンキーにいって、家では好きなだけWi-Fiを使える。クーラーを涼しくて、問題は夏休みの宿題ぐらいか。でも、大丈夫。僕はこの夏休みの入院で「楽しむ」ということを見つけた。よく聞く言葉だけど「聞いた言葉」の「見つけた言葉」には大きな違いがある。それは、言葉へのおもさ。僕は、またいつ入院するかも分からない。でも不安というもやはかかっていない。僕は僕を楽しむんだ。



#2000字のドラマ