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死生観と異文化理解



介護福祉士国家試験の問題から


先日、尊敬する中野玲子先生のSNSで
興味深い投稿がありました。

中野先生は
外国人介護士さんの
日本語支援を長年されていらっしゃいます。

ある日
介護福祉士国家試験の過去問題で
こんな問題がありました。

死亡後の介護に関する次の記述のうち、最も適切なもの1つ選びなさい。

①死後硬直がみられてから実施する。
②生前と同じように声をかけながら介護を行う。
③義歯を外す。
④髭剃り後はクリーム塗布を控える。
⑤両手を組むために手首を包帯でしばる。

介護福祉士国家試験過去問題 第34回問題60より引用


みなさんは、どれが正解だと思いますか?
日本人でも専門外だと難しいと思います。


この問題に取り組んだインドネシア人の方は
⑤を選びました。

不正解です。
「しばる」行為は「虐待」になります。

でも、どうして⑤を選んだのか
その理由を聞いて
びっくり仰天!

実は、インドネシアでは
人が亡くなった後、顔以外の体を
包帯のような白い布でぐるぐる巻きに
することを知ったのです。

なるほど!
だから⑤だと思ったんだと
中野先生は納得しました。


☟元の投稿

facebookの投稿より引用(ご本人の許可を得ています)


不正解だったことだけみて
一蹴いっしゅうするのではなく
理由を聞いてみると
異文化を知る機会になりますね。


中野先生が
偏見を持たずに様々な文化を
広く受け入れることができる方だからこその
エピソードだと思いました。


***


ちなみに、このような国家試験を
来日4年後(3年の実務経験が必要なため)の
外国人介護士さんが受験するんです。
日本語で、です。

外国人受験者は
希望すれば、漢字にルビがふられ
時間を長くする措置がとられていますが
もちろん内容を理解しなければ
答えられません。

異国の地で、ご家族と離れて働きながら
日本の国家試験の勉強をすることの困難さが
おわかりいただけたでしょうか。


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まさに異文化


10年以上前になりますが
EPA看護師・介護福祉士候補者への日本語研修のため
半年間インドネシアに行っていた時のことです。

その研修の中で
候補者たちがグループで
ポスター発表をする活動がありました。

そのとき
インドネシアのお葬式についての発表が
非常に興味深かったことを
思い出しました。

そこで
人が亡くなったら、ご遺体を
白い布で包んで袋に入れることや
お盆のような時期に
遺体を掘り出して
きれいにして服を着させて
パレードするような風習があることも知りました。
(注:インドネシアは500もの民族からなる多民族国家で
   多様な文化習慣があり、全て同じではありません。)


初めて知ると衝撃的ですが
まさに異文化ですね。




改めて、調べてみたら
遺体を掘り出すのは
トラジャ族の風習のようです。☟



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日本の介護の奥深さ



ちなみに、正解は②です。
「生前と同じように声をかけながら介護を行う。」

私はこの答えに感動しました。

生きているときはもちろんですが
死してなお
故人の尊厳を守るのです。

家族にとっても
介護や医療・葬儀関係者から
そのように大切に接していただけると
大変有難く感じます。


***


ただ、人間ですから
個人差があります。

父や母の最期には
様々な方にお世話になりました。

人の優しさにふれ
温かい感謝の涙を流すこともあれば、
冷たさに怒りを覚えることもありました。
(ただ、その怒りは、ブーメランのように
自分に刺さりました)

だからこそ、よけい
日本の介護の倫理観に
心動かされたのかもしれません。


***


過去問題の解答と解説はこちらをご覧ください☟


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ご遺体に対する考え方


講談社+α文庫


『墜落遺体』
1985年8月12日 520名死亡、生存者たった4名
日本史上最大の犠牲者を出した
日航機123便の墜落事故の
実話をもとに書かれました。

今でも事故当時のニュースをよく覚えています。

当時、私の友人は看護師の卵でした。
大変な大事故で
人手が足りなくて召集されました。

その友人から
遺体を収容した体育館で
遺体をきれいにする作業をしたときの
生々しい話を聞いたことがあります。

五体満足で見つかる人は
ほとんどいないので
壮絶な現場だったそうです。

なので、当時の様子が描かれた
『墜落遺体』
は、非常にリアルに感じて
真剣に読みました。

その中で、印象的だったことがあります。

・・・亡くなった外国籍の方の
ご遺族がご遺体と対面したときのこと。

日本の遺体の取り扱い方が
非常に丁寧だということに
驚かれたそうです。

破損がひどく
足りない体の部分も
新聞紙か何かで補足されていたのです。
母国ではそのようなことはしないのでしょう。
(私も本を読んで初めて知りました)

でも、ご遺族はその後
ご遺体を母国に連れ帰ることはしませんでした。

その方の宗教は知りませんが
人が亡くなった後
魂と体は別物と
捉えているのかもしれません。


きっと故人の魂だけ心に抱いて
哀しみと共に帰国されたのでしょう。


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最後に


このように
死生観は母文化によって全く異なります。

日本の一般的な価値観や考え方だけで
他国の文化を否定することはできません。

上も下も、良いも悪いもないのです。


いつでも
フラットな気持ちで
多様な文化の考え方や価値観を
尊重する心の余裕を持ちたいと思います。


***


このようなことを
考えるきっかけをくださった
中野玲子先生に感謝いたします。



最後までお読みいただき
ありがとうございました。



🌈Special thanks to すいすいさん
(表紙イラスト・クリエイター)


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