【妄想】リアルぼうけんのしょ
人生の選択に後悔があったとして。
その選択の前からやり直すことが出来たのなら、違う選択をすることが出来るのだろうか。それまでの記憶を引き継いでいない場合、結局同じ選択しか出来ないのではないか。時間を巻き戻しただけでは未来は変わらない。
だがしかし、それまでの記憶を持ってやり直しが出来たのなら、いつでも好きな時に戻れるのだとしたら、未来を変えることは出来る。ううん、間違いなく変わってしまう。記憶が邪魔をしてズレを生み出してしまうから。
或る日、それが出来ることに気づいてしまった。
それを利用してどういう生き方をしてみたのか、書いてみたいと思う。
人生セーブ機能
これまでの人生で好きな時間に戻ることが出来る(オートセーブ)。
一度戻ったら、戻る前の未来は無かったことになってしまう。
(過去から未来へは戻れない)
万が一、死んでしまっても任意のポイントからやり直すことが出来る。
お金の心配がなくなった
最初はコレが一番だった。
任意で過去に戻れるのであれば競馬の結果もわかるし、パチンコでも出る台がわかる。ちょっと前に戻って馬券を買いなおせば外れることはほとんど無かった。数千万単位を使った時、極稀に結果は変わっていたのだけれど、その時はまた戻れば済む話だった。
不思議だったのは数字選択式の宝くじ。当選番号の通りに買っても、毎回違う数字になってしまっていた。あれはなんなんだろう。
どちらにしてもお金を稼ぐ手段というのは過去に戻れると幾つでもあって、ある程度まとまったお金が出来たのなら投資が一番良かった。買い時も売り時も完璧なタイミングで分かる。負けようが無かった。
仕事をしなくても生きていける
お金の心配がなくなったら、仕事をする必要もなくなった。
過去に戻れる回数に制限があったら困るので、一生を遊んで暮らせそうな資産がキープ出来てから会社を辞めた。これからは好きなことだけをして生きていこうと決めた。お金と時間は繋がっているんだなと本当に思う。
必死になって働いている人を眺める優越感。
間違いなく私は勝ち組だ。
人間関係からも解放される
仕事を辞めたら、煩わしい人間関係からも離れることができた。
と言うよりは私の周囲にいる人がガラリと変わった。類は友を呼ぶではないけれど、付き合う人がまったくこれまでとは違う人ばかりになった。周囲の人間関係で私もこれだけ変わってしまうのか、と。
人生に自分の責任などなくて誰と一緒にいるのか、どういう環境に身をおくのか、その方が余程重要なファクターなのだと知った。嫌いな人間は一切、関わらないのが一番だった。なんだかんだ言って巻き込まれてしまう。
何をするにも余裕が出来た
私自身も鏡を見て驚いている。表情が根本的に違う。
女性を口説くのにも緊張しない。失敗したらやり直せばいいと考えていたのだけれど、その必要性すら無くなった。決してイケメンでもなく、ごく普通の容姿なのに、それほどまでに変わってしまうものなのかと自分自身が一番驚いている。女性に困ることはなくなった。
スポーツへの挑戦
やり直しが出来るのであれば上手くいくまでリセットすればいいじゃん。
これは、種目によって大きく左右された。野球とかサッカー、格闘技ではどうしようもなかった。根本的に持ち合わせているフィジカルが違う。
成功したのは偶然性のある競技。
最初はボウリング。
素人でもストライクは取れるからね。300点パーフェクトも楽勝。
でも、すぐに飽きた。
次にゴルフ。
傍から見ても、ありえないド素人なのに超一流になることができた。そりゃそうだよ。パーオン率、ワンパット率が100%なんだもの。世に出ているゴルフ理論はなんだったのか。結局、上がってなんぼになっちゃった。
宇宙人とも言われたよ。
世界中を旅する
お金も時間もあったら旅に出るよね。私も類に漏れず。
ただ、記憶が引き継げてしまうのでヨーロッパに行ったら時間を戻して次は南米にしようかとか、そんな感じ。帰りの飛行機には乗らなかった。満足したなあって感じたら時間を巻き戻す。
でも、一度だけヤバかったんだ。テロに巻き込まれて死にかけた。否、死んでいたのかもしれない。それでもちゃんと戻れたから心底ホッとした。そのテロ事件をテレビのニュースで見て「あの場所に私もいたんだ」って、不思議な感覚を覚えたよ。
不幸な未来を回避する
そして、その能力を誰かのために使おうってようやく思うんだよね。大勢の人を救うことが出来るって、本気で思ったんだ。最初はネットで予言的に。
でも、話題になったのは事が起きてしまってから。後の祭り。
じゃあ、出るとこ出て訴えたのだけれど誰も信じなかった。信じてもらえないのなら更に時を遡って、信じてもらえるまで予言を当て続ける。そこまでしてやっとあの天災での死亡者をゼロにすることが出来たんだよね。でも、奇跡の預言者とか、未来人とか、言われて確かにその通りなのだけれど、何かが違うって心のどこかで思ってた。人助けをしたはずなのに。
決定的だったのはあのテロ事件。未然に防げたんだよ。でも、その次に更にとんでもないテロが結果的に起きてしまった。それをも回避させると今度は世界を巻き込む戦争になってしまった。そして私は最初のテロ事件を回避させないことにする。もっと言えば天災で生き残った人が、世界を震撼させる凶悪犯罪を起こしてしまうようなこともあった。
こういった大きな災害とか事件に対して、私が手を出すべきではなかった。
最終的に私も殺されてしまった。私の存在が都合の悪い誰かに。
同じ能力を持つ人を探す
私は孤独になった。寂しさもあって結婚して家庭を持つことにした。
もちろん本当に好きな人と一緒になれたし子供にも恵まれた。でも、根本的な、この能力に対しては伏せておいた。
そんな中、私と同じ、若しくは似たような能力を持つ人を探してみた。どう気持ちの整理をつけているのか知りたくて。
出会う人は明らかに詐欺師・嘘吐きであったのだけれど諦めなかった。
諦め切れなかった。
ココにこういう能力を持った私がいるのだから。だけれど、出会うことはなかった。能力を手に入れた時は大概の悩みなんて消えると思っていたのだけれど、それも大きな間違いだった。
慎ましく生きる
結局のところ私は普通の生活に戻る。収入は高くなくても好きな職種について、休日は充分に家族サービスをする。息子がスポーツの試合で負けたりしたらリセットもしたのだけれど結果、日本一で有頂天になってロクなことにならなかったので、それも止めた。ありのままを受け入れて生きていく。
それが如何に幸せなことか、リセットをすることは次第に減っていった。
余命宣告
さすがにコレは回避しないと、と思った。まだ40代、早すぎる。
治療が間に合うところまで遡ってみた。けれど、回避することは叶わず、原因であったと思われる煙草を吸い始めた頃まで戻らざるを得なかった。それが最大の後悔になることとは考えずに。
会えなくなった息子
私が遡ってした最大の後悔。二度と息子に会うことは出来なかったこと。
何度も妻と出会って子供を作ったのだけれど、娘だったり、男の子であっても全然違っていたり。赤ん坊のうちは分からないこともあるので何年か成長を待ったりもしたのだけれど、その都度期待は裏切られた。時によっては名前ですら生まれる前から反対されてしまう。
消してしまった未来の取り返しは出来なかった。
子供との出会いは宝くじで1等が当たることよりも奇跡的なことだった。
充実した人生を巻き戻せなくなる
それでも私は生きていくことを、前に進むことを決めた。
程好く、巻き戻しを使いながらも世の中を少しだけ良くすることに努め、充実した人生を歩めるようになった。極端なリセットはせず、徐々に年を取っていく。既に死を受け入れる準備も出来ていた。余命宣告を受けるような大病を患うことも無く、幸せな人生。
やがてくる、その時まで穏やかに寿命を全うしようと。
絶望
寿命を全うした。いい人生だった。
と、思ったのも束の間。
生まれた瞬間に逆戻り、しかもご丁寧に記憶付き。
やり切ったはずの人生を、またやり直さなければならないのか?
これはもう7656回目。
生まれ変わるのなら未来へ行きたかった。
どうしようもない絶望。
私は考えることをやめた。
今、一番に私が望むこと。
おきのどくですが
ぼうけんのしょ1ばんは
きえてしまいました。
消してください。心の底から願います。