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ばらがき 【 小説 】

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新撰組の面々の多摩時代、若き日の物語 ※ 表紙イラストはGATAGフリー画像のFadlyRomdhani様
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2021年12月の記事一覧

ばらがき ( 余 )

ばらがき ( 余 )

 近藤に風呂場をかりて血と汗をおとし、土方の着古しを借りて家にたどり着くころには、すでに高くなった陽光にこうこうと庭が照らしていた。
「……さて……」
 ――一応、源三郎さんに、家のものにうまく言い繕ってくれ、とたのんでおいたが。
 忍び足で、うら口にまわる。
 ――母に騒がれでもしたら、かなわない。
 先程の襲撃よりも、よほど慎重にことを進めていく自分に、はじめは苦笑いする。まるで、いたずらが発

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ばらがき 10

ばらがき 10

「ひゅうっ……!」
 のど笛に突きを喰らった男の口から、木枯らしの季節のすきま風のような音がもれた。
 総司の目から、ぬら……、とあわい光がゆれ、大の男たちが、そろいもそろって後じさる。
 その速度の何倍もの速さで、総司の剣は突き進む。相手に断末魔の叫び声さえあげさせず、一気に三人を屠った。深々とささった剣がぬけると、びゃっ、と赤い飛沫が周辺に飛ぶ。まるで、豪雨のように。
「ひぃぃ!」
 使い古し

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ばらがき 9

ばらがき 9



やくざ者たちの居場所は、わりあいとすぐに割れた。
「わかったぞ」
 ――そこいらの密偵なんかより、余程、早い。
 父親と祖父の仕事と比較して、はじめ少年は改めて、土方という男を見直した。
 薬売りの姿をとく土方は、至って冷静だ。
 土方の長兄は盲目なのだが、なぜか裏社会に広くゆうずうがきくという、なかなかに面白き男であるのだが、そのつてを使い倒したようである。
 加えて、上から数えて三番目の

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