好きなもの①~音楽~

高田馬場にあるロックBarの水曜日は音楽好きが集まってくる。ロックって大音量で激しく頭振るやつですよねという程、音楽にうとかった私がまさかロックBarに通うことになるとは。

初めてこのBarへ来たとき、私より少しお兄さんのムラセさんがギターを弾いていた。それから毎週、足を運ぶようになったのだけれど、立ち位置としてはいつかムラセさんがライブをする時に人を集める「集客担当」だった。

でも、目の前で楽しそうに歌っている人がいたらどうするか。人間って不思議。そう、私は自然とお店にあるタンバリンやカスタネットを叩いたり、マスターがどこかの国で買ってきたというカエルの楽器(背中が洗濯板みたいになっていてギコギコやるとグヮグヮ鳴くやつ)を手にしていたり、ドナルドダックの声みたいに聴こえるカズーという楽器をくわえてガァガァとアヒルみたいに歌ってみたりしていたのだ。

そのうちカホンやボンゴ、直近では新しく導入されたジャンベをポコポコ叩いている。マスターが歌う時はカウンターのなかでビールを注ぐし、合いの手をいれろと言われたら「ロックンロール!ロックンロール!」とひたすらコールすることもある。

必殺仕事人で言えば「なんでも屋の加代」みたいな感じだ。

ただ誤解してほしくないのは、私はどの楽器も上手くない。

例えば、昔ちょっとドラムをやってたと言う人が来てカホンを叩くとする。そうすると、あら不思議。私の1年の練習なんて数分で抜かされた挙げ句、ツッタカツッタカ、軽快にリズムを刻んでるなんてことはしょっちゅうで。

だから私は、くぅ~!また抜かされたぁ!と言うのだけれど不思議と全然悔しくない。

それはきっと1メートルを1年かけてほふく前進してるような私に、飽きもせず「さえさん。だんだん上手くなってるね。」なんて温かい声をかけつづけてくれるマスターやムラセさん、そして皆がいるからだ。

俳優でありブルースハープ奏者のヴィーノさんから「さえちゃんのカホンには、気持ちがあるよね。」なんて優しく言われた日には、もはやハートだけでやってますと言わんばかりのドヤ顔で叩いてるものだから、多分、顔の作り方だけ上手くなっている気がする。

上手い、ヘタで分けてしまうと途端に面白くなくなるけれど純粋に音楽が好き!という集まりだから、少年のような心で皆揃って眼をキラキラさせていられる。

ときには甘くてしょっぱい青春時代を思い出したり、少し先に見えている現実的な話をしながら、ウソのない素の自分でいられる。そんな仲間がいて音のある時間だからこそ。だからこそ、毎回、今日も来て良かったと、また来たいと思えるのだ。

そう、そして私はいつのまにか、集客担当から眼をキラキラさせるほどに音楽が好きなひとりになっていた。

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