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絶景




お金があればまず旅行に行くと思う。




海外だったらスペインに行きレアルマドリードとバルセロナのクラシコが観たい。

ニューヨークでホットドックとコーラを片手にヤンキースの試合が観たい。


国内だったら福岡で屋台に行って
下戸の僕はお腹いっぱいご飯を食べたい。

ラーメンはもちろん、鳥串、天ぷらもある

頼みすぎた料理を僕はコーラで流し込む。

一緒に来てるツレは普段飲まない熱燗で流す。

旅が好きで柔軟性溢れる男。


狭い屋台にもう1組入ってきた。
僕らの隣だけが空いてる。

でもスペースは1.9人分しか空いてない。

「神様、お願い。この空間を守って下さい。」

中肉中背が2人が来ただけで秩序は乱れ

先ほどまでの快適度が暴落する。


「おじちゃん、3人なんだけどいける?」


「…奥空いてるからどうぞ!」


え?


奥って言って俺らの横の席を指したぞ。

嘘でしょ。

利益を追求し、空間の秩序を無視しやがった。

だったら広い居酒屋やればいいのに。


そう思い隣の友人を見ると

店に程よく伝わる声量で

「ちょっと詰めましょうか!」

柔軟性が溢れてる。
豪に従うどころか、壕を築いてる。

「お兄さん、狭いけどごめんねー」

フランクに話しかけてくるのはTHE福岡美人。

3人とも小肉高背。3人とも0.8人分。

1.9人分のスペースは
今2.5人分となり0.6人分溢れてる。

溢れた1人のお尻は半分以上出てるよ。



「奥に椅子あるからそれ座ってね!」


「はーい!!」

屋台のおじさんすいません。

俺、将来老人ホームの嫌われ者になりそう。



秩序も取り戻され
屋台でつまみをとにかく食べる。

ツレに母のエピソード話していると
隣の美人が大きな声で笑いってる。


「お母さん健康ランド出禁って本当?」

笑いながら声をかけれた。


「あ、そうなんです」


「お母さん、めちゃくちゃ面白い」

と大きな口を開けて笑う。


親が見たい。
どんな配合なら
こんな可愛い子が生まれるんだろ。


「お兄さん、飲まんと?
そんなんじゃ福岡の女落とせんよ!」


と言われて断れるわけもなく

無理して飲んで
顔真っ赤にして、吐いて、介抱された。


「ごめんね!こんな弱いと思わんかった!
酔い冷ます為にちょっと散歩しよっか!」


2人で夜の中洲の川沿いを散歩する。

彼女は熊本で魚屋をやってる
「てっこおじちゃん」の話をしてくれてる。


お金を払って有名な観光地を巡るのもいい。

でも今は母の出禁エピソードで
幸せな時間を過ごせている。



「明日帰るんでしょ?良い思い出できた?」

「楽しかったですよ」

「そりゃ良かった!出会いは?」

「出会い?」

「うん。良い出会いあった?」

「それはどうかな…」

「これも出会いじゃないの?」

「え」



そっから言葉が一切出なくなって長い沈黙。


「てっこおじちゃん」の魚屋で
切り身の横に、ペットの金魚を飼ってて
金魚自身が大きくなったら売られると思い
あんま太らないようにしてたらしい
というよくわかんない話を
聞いてた時間が懐かしい。



川を往復し、もう屋台につく。


手を握ってみた。

何も言わずに強く握りかえされた

「いい出会いあったね」

彼女が小声で呟く。




あー完全に好き。惚れました。

てか隣座った時点で惚れてたけど。


でもそこから口説く勇気が出なく

LINEも聞けなくて

彼女は明日も会うかのように

「またね!」

と颯爽と中洲の夜の街に消えてった。

そうして帰りの飛行機で意気消沈。

スチュワーデスさんからの
「膝掛けいかがですか?」にも空返事で断る。

「いつもこうだ。「好き」の一言も言えねえ」

恒例の自己嫌悪に陥る。


落ち込んだ表情のひとつも隠せない僕は
窓から雲を眺める。今は岐阜上空。

すると足元が暖かくなる

「病み過ぎて感覚までおかしくなったかな」

なんて思うと膝には厚手の布かかっている。


「コンソメスープ飲みましょ?」


振り返る先には高度1万メートルの天使が
俺に砕けた笑顔で声を掛ける。

「いかがですか?」でなく「飲みましょ?

最上級に丁寧な言葉遣いをする
スチュワーデスさんが
僕に言葉を崩して話しかける。

それにこの笑顔は厳しい研修で培われた
笑顔じゃなく1人の女性としての笑顔。

「あっ。スチュワーデスさん、ありがとうございます。」


ハッとした。


確か「スチュワーデス」って差別用語だ。


やばいと思い


「あ、違う違う。CAさんありがとうございます」と言い直す。


「どっちでも大丈夫ですよ。優しいんですね」

埋め込まれた丁寧語よりも
ずっとこっちの気遣いの方が嬉しい。

子供の頃は飛行機に乗ると
何故かコンソメスープを必ず頼み

機内で意味もわからず落語を聞いて悦に浸り

ベルト装着サインの電気が消えると

立ち上がる用もないのにベルトを外してた。

今はベルトを外さないし
LINE MUSICで音楽を聴く。

ただ普段飲まない
コンソメスープは欠かさない。

飲み物を持ち込んでも
コンソメスープは頼んでしまう。

もしかしたら貧乏性なのかな。

ただ今わかるのは、この思い出のせいで
おっさんになっても頼む事になると思う。

そんな事を考えていたら

「間も無く東京上空です。
機長は佐々岡、副操縦士は…」

到着してしまう。

車輪が滑走路についた瞬間に
完全に夢が覚める気がする。

声をかけたい。
涙を飲んだ福岡の夜を無駄にするな。


CAさんが俺の横を通る。

「すいません。もしよろしければ






いや、そんな妄想はどうでも良くて

今僕が1番いきた場所は

キングオブコント決勝の舞台

まさしく絶景。まぎれもない絶景。


高校で一緒に臭いラーメン食らった同級生が

女を覚え金を持ちハイブランドで身を固め

ボーナスで浮気相手と沖縄に行くらしい。


なんも羨ましくない。
そいつが知らない絶景の存在は知ってるし
そいつが知らないコントという存在を知ってる

もしかしたら
恵まれた学生生活を送り、金があれば
芸人になってなかったかもしれない
金がないし、ATMの手数料が好きじゃない。

貧乏は心も貧しくしていく。


でも結果コントに出会えたから幸せ。

本当に。


そんなキングオブコント決勝。


「そりゃコントしている人間は行きたいだろ」

と思うかもしれないけど

一番下のランクにいた頃は
現実的じゃなさ過ぎて

「決勝行きたい!」

なんて軽い気持ちで言えるわけがない。

酒飲んでも言えなかった。飲めないけど。


1年目の時に同期が
「俺はしゃべくりの漫才師だから」
とか言ってるのが苦手だった。

「1年養成所でお笑いかじって一丁前にしゃべくりって、お前早く喋ってるだけだろ。まだ漫才師でもないだろ」

とか思ってた。てた。

下のクラスに劇場の人権なんてないし
上に行く事で居場所を作れるって
思って頑張るタイプだから許して。




今の自分が実力があるとも思えないし

去年は1回戦落ちしてるわけだけど。

戦えるはずだし、そうでありたい。

あの頃よりコントが好きだし
コントをもっと知りたい。




そして今サンジェルマンを
応援しているあなた

数年後もお笑いに興味を持ち続けていても

別のコンビを応援していても

お笑いから離れ
別の事に興味を持ったとしても

応援していた時間を肯定できるように!



とにかくキングオブコントの決勝に行きたい。

そして優勝したい。

そうしてえいながとの目標

歳食ってもコントをやっていくを叶える。

単独ライブをやり
ツアーで地元を始め全国を回り

劇場に足を運んでくれる皆さんと

コントをやれる喜びを分かち合いたい。



そしてツアーで福岡行って

コントやってやってやりまくって

夜には柔軟性溢れるえいながと

中洲の屋台に行くのもあり。


いや、コンビで中洲はないな。1人でいこ。




決勝行くぞ。見とけ。


サンジェルマンあとむ

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