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指圧がウケない理由

【SHIATSU TALKS #12

つい先日、2020年度あはき年間受療率が発表されました。鍼灸は4.9%(前年度から−0.3%)、あマ指は16.4%(前年度から−3.7%)だったようです。業界紙を読むと、依然として鍼灸の受療率は低迷していて、あマ指は多少の上昇傾向はあるものの、特に今年は新型コロナウイルスの影響で、受療率が下がったとの見解でした。
結果を紐解いてみると、全体的な男女比は4:6、鍼灸は60代、あマ指は30〜50代がコア層で、受療する理由第一位は、「健康になりたいから」、受療しない理由第一位は「興味がないから」でした。
さて、今回はこの結果を踏まえて、僕なりの見解をお伝えしたいと思います。

結論

まずは、最初に結論です。
このような結果を改善するためには、業界全体の
"先生"マインドを変えていく必要があると思っています。

我々の業界は、学校教育の中で"指圧師は医療人である"ということを前提に教育がなされます。
そのため、医療人=先生というマインドが古い時代から続いているため、自称"先生"や"先生"になりたがる人達、いわゆる"先生症候群"が増えてきているように思います。

先生症候群とは、経験もそこそこなのに、先生と呼ばれ始め、勘違いし、偉そうな態度や発言をして、自分の立ち位置を見失ってしまう病気です。

え?知らない?そりゃそうです。
僕の造語ですから。

僕は、この"先生症候群"が今の業界を衰退させている主な原因と考えています。この病気は、ある意味感染症です。人から人へとどんどん感染していきます。

業界の大半の人が、勝手に先生症候群をこじらせ、一般の人に対して指圧の良さをアピールしてこなかったツケが2021年現在、確実にまわってきています。

では、なぜこの病気の感染拡大が起こったのでしょうか。

"先生"が量産する原因

まず第一に考えられることは、無資格施術との摩擦で起こる、差別化が考えられます。
現代は、昔と比べて整体やリラクゼーションなど、いわゆる無資格施術が、街に一段と増えてきています。

考えてみてください。駅前のリラクゼーションの店員さんは、自分たちのことを"先生"とは呼びませんよね。
ですが、私たち国家資格者は医療人マインドをこじらせているため、「我々は、リラクゼーションや整体より上なんだ!」というアピールから、自分たちを先生と呼ばせたがる。

ホームページのスタッフ紹介欄に"○○先生"なんて記載されている頭のおかしい施術所があったり、お客さんが呼ぶならまだしも、スタッフ同士で○○先生と呼び合う施術所があったりと、もう本当に鳥肌が立ちます。

次に、慣れから起こる思い込みです。
ある施術者がお客さんに「○○先生」と呼ばれる。
同じ施術所の施術者に「○○先生」と呼ばれる。
業者からの届け物の宛名が「○○先生」だったりする。

こんな小さなことを毎日積み重ねると、自分は"先生"なんだと思い込んでいく。
これは皆さんが思っているより、破壊力があり、毎日の積み重ねは信じられない症状を引き起こします。

また、残念ながら、SNSの普及によって、情報の発信が簡単にできることや、自分好みの偏った情報を受け取りやすくなっていることが原因で、勘違いちゃんが増加し、仕事が"できるフリ"をしやすい。

皆さんも、日頃SNS等を見ていて、胡散臭い人いませんか?

誰も聞いてもいないのに、自分の治療法を大きい声で発信し始めたり、セミナー等を開催し始めたら、その方は"先生症候群"かもしれません。

前回もお伝えしましたが、セラピスト(あえてこの言葉を使います)は、暇になると人に教え始めます。

実を言うと、以前僕も重度の症状を発病していた人間です。ですので、患っている方の気持ちはわかっているつもりなんです。

この病気の特徴は、真面目に仕事をすればするほど患いやすいというところ。
我々の業種は、それぞれ方向性は違えど、目の前のお客さんの症状を少しでも改善したいという気持ちはみんな同じだと思います。

お客さんからの「ありがとう」という言葉のために、勉強したり、セミナーに行ったり、練習したりするわけです。

お客さんは我々を信頼してくださった時に、"○○先生"と言ってくださる。ある意味"先生"という言葉は信頼の証です。

真面目に仕事をして、信頼を積み上げれば積み上げるほど、"先生"と呼ばれることが多くなり、結果"先生症候群"を発症してしまう。

この病気の怖いところは、自分では気づきにくく、重症化すると、指圧師生命も追いやられてしまう可能性があるということ。

何事も、驕りが出ると周りから相手にされなくなりますから。

兎にも角にも、年々、受療率が下がっていることを考えると、今のままの状態では、これからも業界が衰退していくことは明らかです。

僕らの施術を受ける人は2割

さて、もう一度今回の結果を確認してみましょう。

特にこれから開業を考えている方は、この現実を知っていただきたいのですが、僕らの業界は、全体の2割の人たちを取り合いしています。残りの8割の人は「興味がない」訳ですから、非常に顧客の分母が少ない業界ということになります。

ですので、この2割をいかに自分のお客さんにするかということを考えなければなりません。

以前のblogでもお伝えしたように、年々施術所の数は増え、廃業率も上がっています。
なのに、全体の8割は僕たちに興味がないという結果も出てしまっている。

これ、完全にマズイです。

特に経営を勉強したことのない僕ですら、この数字を見れば、業界がいかに危ない状況なのかわかります。ですから、我々はSHIATSU CAMPを始めた時から、指圧を若者に発信しないとダメだということを、常にお伝えしてきたつもりです。

では、この2割の方々があなたの施術を受けにくる可能性は何%でしょうか?

例えば、日本の成人の人口が一億人と仮定して、そのうちの2割は二千万人。全国の施術所が二十万件とすると、一件に来てもらえるお客さんの数は年間100人。そのうち2割を月一回通ってもらえるコアファン、2割が年4回通ってくれるリピーター層、残り6割が年1回通うと考えると...

月一回(年間12回)通ってくれる人
100人×0.2=20人
20×12=240人

年間4回通ってくれる人
100人×0.2=20人
20×4=80人

年間一回通ってくれる人
100人×0.6=60人
60×1=60人

合計380人が1年間で一つの施術所に通うことになります。月にすると

380÷12=31.7人!

週二回休むとして、1日約1.5人のお客さんに来てもらえることになります。一人の単価が5000円だとすると、158500円/月。

年間の売上は、1902000円となります。

日本の平均年収は、4500000円なわけですから、なかなか厳しい売上です。
更に、一つの施術所に複数のスタッフがいることも多いと思います。スタッフを雇っていたら確実にこの売上では廃業してしまいます。

そうなんです。大雑把な仮定が前提ですが、どう考えても計算が合いません。これでは商売にならない。廃業率が年々上がっていることも納得できます。

ですから、これからの時代は既存の2割の方々へのアプローチではなく、"興味がない"と回答した8割の方々にどれだけ発信できるかが大切になってくるのではないでしょうか。

"興味がない人"へのアプローチ

さて、この"興味がない"と答えた方々は、指圧を"必要としない"のでしょうか。

僕は"興味がない"と言う言葉は"知らない"と言う言葉にも置き換えられると思うんです。
音楽に例えても、「ヒップホップなんてヨーヨー言ってるだけで興味ないよ」と話すロック命みたいな方も、実はヒップホップをちゃんと聴いたことがない、知らないだけということが多々あります。

ですので、僕らがやらなければならないのは、まず興味のない方々に、指圧を受けていただくということです。

手前味噌ながら、SHIATSU CAMPはこの層にアプローチするために7年間イベントやフェスの出店を行っています。僕は、能書きを言う前にまず行動だと思っています。出店をしていると、インターネットの情報や教科書には書いていないリアルなお客さんの声というものが届きます。

指圧を"ゆびあつ"と呼んでしまう若い女子。
過度に回数券の営業を受けて、指圧に対する胡散臭いイメージを持ってしまったおじさん。
指圧なんて老人の受けるものでしょ?と勘違いしているパンクなあいつ。

これは全てリアルです。

このリアルな層に我々はアプローチしていかないと、将来がありません。

指圧業界は、この「興味がない」人達をこの何十年間で相当な数、逃してきている。

これからの時代、働き方は大きく変わっていくと思います。もうお医者さんの真似事はやめましょう。我々は独自の立ち位置があるはずです。

白衣を着て先生ヅラして、偉そうにしていたら、目の前からお客さんがいなくなっていた。なんてことにならないように注意してくださいね。

最後に

一点、勘違いしないで頂きたいことがあります。
指圧師は医療従事者であることに間違いはないし、お客さんに基礎医学に基づいた説明は必須なわけで、お医者さんとも、身体の話ができなければ仕事になりません。

ただ、雑誌などでよく特集されるような“神の手"など存在しないし、万能な治療法などこの世には残念ながらありません。勿論、指圧も万能ではない。

どうしても、そこを求めてしまうと"先生症候群"を患いやすい。

自分の技術に限界があることを知ることも大事なことです。「これは自分の範疇の症状ではない」と判断し、病院への受診を促すことができることが一流の施術者への第一歩だと思います。

最低限の医療知識を持ち、常にアップデートしていくことは、指圧師として当たり前のことです。

僕は、お医者さんに治すことが出来なくても、指圧師が改善できる症状は、たくさんあると思っています。

お医者さんからお客さんを紹介されるような指圧師になることができれば、素晴らしい施術者なのではないでしょうか。

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