フォーカスΖ

えたいの知れない不吉な塊が私の心を終始おさえつけていた。

解けない問題や上がらない成績がいけないのではない。
またセンター試験まで時間がないという焦りなどがいけないのではない。

いけないのはその不吉な塊だ。

以前私を喜ばせたどんな美しい音楽も、どんな美しい推しの画像も辛抱がならなくなった。

その不吉な塊とはこの感想文という課題である。

私は昔から感想文という類のものが本当にできない。
感想があることはあるのだが、紙に書けと言われると全く何を書いていいかわからなくなるのだ。

しかし前回の課題を提出していない今、この感想文はどうしても提出しなければならない。

私は週末この不吉な塊に悩まされていた。

日曜の夜、私は机の棚にフォーカスΖがあることに気づいた。

私はフォーカスΖが好きだ。
内容はもちろん見た目もかっこいい。

私はフォーカスΖを解くことにした。

するとどうだろうベクトルの問題を解いた瞬間不吉な塊が弛んできたと見えて、私は非常に幸福だった。

数式を見ているだけで憂鬱が紛らわされる。

私は夢中でフォーカスΖを解いた。

感想文は締切である明日の朝にまわすことにした。

翌朝学校についた私はこの原稿用紙を広げた。

するとあの不吉な塊がやって来た。

｢そうだ。｣

私は昨日のことを感想文にするという奇妙なたくらみを思いついた。

変にくすぐったい気持が机に向かう私を微笑ませた。

2018年 12月
高校3年生の時、｢檸檬｣の感想という課題で書いた作文(一部修正・加筆)

用語解説
・フォーカスΖ(ゼータ)
   高校で配布されていた数学の問題集。青チャートと黄チャートの中間の難易度、らしい。青い表紙がかっこいい。

これのふざけた感想文を本当に提出日の朝に書いて提出した自分も頭おかしいし、これを学校の作文集(先生に選ばれた優秀な作文が載る)に選んだ先生も頭おかしい。

帰省したときに見つけたのでnoteに載せてみました！！！

面白いなって思ってもらえたら嬉しいです
当時の結構な自信作なので笑笑