観光学は多彩な分野で進められています

学生Q.観光というのはいろいろな人がいろいろな立場でコメントしているような気がします。物理や経営や医学のように分野としてピュアな感じがしません。観光学科に進学しているのに、今更なにを、と思いますが。
コクジーA.観光を教えている先生や研究者が大学でもともと、どういう分野の勉強をしてきたかを考えると実に様々です。最近でこそ、多くの大学で最初から観光学として学ぶ人が増えてきましたが、かつてはそういう専門学科はありませんでした。私の場合は農学部の「造園」でした。庭園や公園の計画や設計をする勉強です。そこから観光へ進んできました。だいたい1970年から80年代の話ですね。その頃は理学部で「地理」の勉強していた人も多かったようです。地域を理解するためには地理の知識が不可欠であったためでしょう。「文化人類学」や「民俗学」(たとえばアイヌの研究や沖縄の信仰のことを研究するような)を専門にする人もいます。それらは「地域の魅力」を研究することにつながりますから、そこに人が訪れる、という現象に触発され、「観光」に興味を持ち始めるというパターンです。また、農学部の林学分野から「森林風致」(山や森林地域の優れた自然景観を維持育成するための研究)」に関する専門家も参入してきました。そして、もっと重要なポイントは工学部系統の「建築」や「都市計画」、「土木」、「交通」の分野の人達です。国土の基盤を作ったり修復したりする技術の分野は必然的に「美しく作る」ということに力点が置かれ始めました。彼らは感性のみならず、安全率の計算や配置論、需要予測など観光の発展に不可欠な概念と手法を持ち込みました。こうしてみると全体としてはどちらかといえば、観光って「理系」に比重のかかっていた分野ともいえるのです。こういう分野の人は主に観光地「づくり」に興味があるのです。意外に思われるかも知れませんが、もともと経営や商学分野から観光に興味を持つ人は少なかったのです。しかし、観光地は作り出すだけではだめで継続させていかなければなりません。それに気づいて経営学や社会学の立場から観光を考える、という傾向はここ10年くらいの間で盛んに議論されるようになってきました。本学の学生諸君はほとんど「文系」ですから、私のような出発点を持つ教員の講義にはなじみが感じられないかもしれません。でもいろいろな立場から観光を論じる先生の講義を受け、複合的な視点を持つようにしてください。こういう性格を持つ観光学って案外刺激があって楽しいものです。

学生Q.先生、板書を写している時に内容を説明するのはやめてほしいです。
コクジーA.手と耳は別です。社会に出て仕事をする時は、聞きながらメモすることは普通にあります。同時に次にどういう質問すれば良いかを考えないといけない時もあります。そんなん、むずかしいわい、と思うかも知れませんが、これも練習だと思ってください。それから板書を写すのが面倒なのか、スマホでカシャッてやっている人がいますが、それは禁止です。絶対君たちは後で読まないし、第一、私が腰痛を我慢して板書しているのにちょっとむかつくぜ。

学生Q.講義中で使われる写真がきれいで楽しみにしています。多少教室が暗くても眠くならないのはこの授業ぐらいかもしれないです。ほんとうに興味と学習が一致してよかったです。今日は欠席者が多かったのか、空いている席が多かったので、静かでさらに集中出来ました。
コクジーA.ほかの授業は寝ているというのでは困ります。でも自分の学生時代はどうだったか、あんまり思い出せないのは、私も寝ていて記憶にないからかも知れません。欠席者の多い少ない・・・ということについては先生の間でもよく議論されます。「出欠を厳格にとると授業を聞きたくもない学生が詰めかけ、教室がうるさくなる。出欠をとらないようにすると真面目な人だけになって、環境が改善される」ということなのです。いろいろなやり方があるでしょうが、第一段階は、皆が出席するように考え、その上で静かにさせる、という試みをとりあえず続け、お手上げになったら、厳しい方法を採るかも知れません。

学生Q.写真がとてもきれいでした。私もホタル運河を見に行きましたが、歴史を知らなかったので、楽しくありませんでした。背景を知っているだけで、価値が2倍にも3倍にもなると思いました。
コクジーA.その通りだと思います。旅行から帰ってくると、あそこのことを前もってもっと知っておけば・・・と思うことはたくさんあります。ところで、ホタル運河でなくて、小樽運河なんですけど・・・。ホタル運河もネーミングとしても悪くはないんだけどねぇ。授業をしている者としてはちょっと泣けてくる。

学生Q.今回の新型インフルエンザで観光業界は影響を受けているのですか?(この質問は2009年の話です。当時、日本でも豚由来の感染症がはやり始めていました)
コクジーA.これからでしょうね。旅行はバス、飛行機、鉄道など閉鎖的交通機関を利用せざるを得ず、今年と来年はかなり打撃を受けるでしょう。かつても海外旅行に限ればアメリカの同時多発テロよりもSARSの方が影響は大きかったです。(残念ながら、2020年に入って、新型コロナのパンデミックが起きてしまいました。悪い予感的中です。観光業は致命的な打撃を受けるでしょう)


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