『アンティーク~case.ロージ~』(3・4話ロング)

 :―とある世界線、裁判中―
審判官:「それでは、判決を言い渡す」
審判官:「ロージ・ライ・メンティーラを有罪とする。そして、斬首刑に処すものとする」
ロージ:「俺は何もやっていない!!」
審判官:「判決は神の元、決まった。覆ることはない」
ロージ:「ふざけるな!!俺は平穏に暮らしていただけだ。なのに、いきなり捕らえられた!!理不尽以外の何物でもないだろう!!」
審判官:「全ては、神が決めたこと。私はそのお言葉を伝えているだけだ」
ロージ:「何が神だ!ただの妄言者共め!!」
審判官:「神を冒涜(ぼうとく)するというのか。いいだろう・・・・」
審判官:「この審判の後、直ぐに刑を執行する。準備を整えよ!!」
審判官:「この罪人をそれまで牢に入れておけ」
 :―ロージ兵たちに腕を捕まれる―
ロージ:「っ!?ふざけるな!!俺は絶対に認めないぞ!!」
 :―斬首台―
審判官:「只今より、罪人『ロージ・ライ・メンティーラ』を斬首の刑に処す!!」
審判官:「最後に一言、言いたいことはあるか?」
ロージ:「こんな狂った世界、俺は許さないからなあああああああああああああ!!!!!!!!」
ロージ:痛みと共に、俺の記憶は数分後途切れた・・・・
 :
 :
 :―ナナが来て半年後―
 :【アンティーク入口、扉の前】
月下:「うーむ、どうしたものか」
月下:「やはり嫌われているんですかねぇ」
 :―月下、扉の向こうに呼びかける様に叫ぶ―
月下:「おーい、静さーん!!今日は仕事なので、流石に開けてくれませんかねー!!」
月下:「ふむ、そう云うつもりなら私にも考えがあります」
月下:「静さん、そろそろメンテナンスの時期ですよね。あれできるの、私しか居ませんよね~」
月下:「入れてくれないと、メンテナンスしませんよー?」
 :―勢いよく扉が開く―
月下:「痛たたたた。やっと開きましたね。そして何です?眉間に皺なんて寄せて」
静:「なるべく貴方の顔を見たくないんですよ、月下」
静:「開店前に最悪な気分です」
月下:「貴方は見たくなくても、これも私の仕事の内です」
月下:「さて、扉を開いてくれたということは入店しても?」
静:「ええ、どうぞ(嫌そうに)」
静:「その前に、額から垂れている血をさっさと止めなさい」
月下:「はいはい」
 :―月下の額の傷が見る見るうちに修復していく―
静:「いつ見ても不気味ですね」
月下:「貴方も人のことは言えないでしょう?」
静:「・・・・」
月下:「席に案内をお願いします」
静:「お好きな席へ」
月下:「冷たいですね~」
ナナ:「いらっしゃいませ!」
静:「ナナ、こいつをテキトーな席へ案内お願いします。因みに、お客様ではありません」
ナナ:「は、はい。では、こちらへ」
月下:「ありがとうございます。お嬢さん(胡散臭い笑顔)」
 :―月下席に着く―
月下:「さて、あれを出しなさい。先ずはメンテナンスからです」
静:「分かりましたよ(溜息)」
静:「ナナ、スタッフルームにキセルがあります。持ってきてもらえますか?」
ナナ:「は、はい」
 :―ナナ、スタッフルームに行く―
月下:「そういえば、先ほどのお嬢さんは誰です?」
静:「アルバイトですよ」
月下:「おや、珍しい。この店にアルバイトとは」
静:「月下、貴方には関係無いでしょう。アルバイトが居ようが居まいが」
月下:「まあ、そうなんですけどね」
月下:「あのー静さん、緑茶でもいただけませんかねぇ」
静:「貴方から代金を戴くのは嫌です。なので、自分の唾でも飲んでおきなさい」
月下:「やれやれ、相変わらず冷たいですねぇ(笑)」
 :―ナナ、戻ってくる―
ナナ:「静さん、お待たせしました。キセルってこれで合っていますか?」
静:「ええ、合っていますよ。ありがとうございます」
ナナ:「キセルって専門の方じゃないとお手入れできないのですか?」
静:「いいえ、手入れ自体は自分でできますよ。ただ、このキセルは少し特殊なんです」
ナナ:「特殊?」
月下:「そうですねぇ、このキセルはかなり特殊ですからねぇ。私でないとメンテナンスができないんですよ」
静:「腕だけは確かですからね、貴方は。腕だけは」
月下:「それだけでもお褒めいただき光栄ですよ」
静:「前向きすぎて腹が立ちますね」
静:「それではメンテナンス、お願いしますね」
月下:「はいはい」
ナナ:「あの、静さん!メンテナンスの様子見ててもいいですか?」
静:「準備もほとんど終わっていますし、お好きにどうぞ」
静:「私はスタッフルームに居ますので、終わりましたら呼んでください」
ナナ:「分かりました」
月下:「さて、始めましょうか」
 :―月下、道具を出す―
ナナ:「月下さん」
月下:「何ですか?」
ナナ:「静さんと仲が悪いのですか?」
月下:「仲が良いのか悪いのかで言えば、悪いのかもしれませんねぇ。それでも俗に言う『腐れ縁』ってやつですよ、私と静さんは」
ナナ:「腐れ縁ですか。そうすると、凄くお付き合いが長いのですね」
月下:「ええ、そうですね。いつの間にかですねぇ」
 :―月下、作業をしながら―
月下:「まじまじと手元を見てどうかしましたか?」
ナナ:「分解できるんですね」
月下:「そうですよー。キセルによってメンテナンス方法も様々ですがね」
ナナ:「キセルにも種類があるんですね」
月下:「そうですねぇ。静さんが使用しているのは、一般的なタイプ『石州(せきしゅう)』になります」
月下:「今回は、羅字(らう)の劣化があるので、その修繕ですね」
ナナ:「羅字(らう)?」
月下:「この赤い棒状の部分ですよ。この部分は普通は取り換えるのですが、静さんの場合は少し特殊なので、ちょっとだけ魔法をかけます」
ナナ:「魔法ですか?」
月下:「魔法です。少しだけ、目を閉じていただけますか?」
ナナ:「は、はい」
ナナ:私が目を閉じている間、暖かな木漏れ日の様な光が私と月下さんを覆っていることを、何となく感じた
月下:「もう目を開けてもいいですよ」
ナナ:私はゆっくりと目を開けた。すると、羅字(らう)の部分に模様が浮かび上がっていた
月下:「これでメンテナンスは終了です」
ナナ:「もっと時間がかかるのかと思っていました」
月下:「普通の修理ならもっと時間がかかりますよ。ただ、これは特別です」
ナナ:「特別ですか」
月下:「ええ、特別です。ただ、ここから先は秘密ですよ。しー(人差し指を口元に当てている)」
月下:「それでは静さんを呼んできていただけますか?あ、そういえばお嬢さんのお名前を聞いていませんでしたね」
ナナ:「ナナです。改めてよろしくお願いします。月下さん」
月下:「こちらこそ、よろしくお願いします。ナナさん」
月下:「それでは改めて静さんを呼んできていただけますか?ナナさん」
ナナ:「はい!」
 :―ナナ、静を呼びに行く―
月下:「あのお嬢さんが噂のイレギュラーですか。これからが楽しみですね」
月下:「ねえ、静さん」
 :―ナナ、戻ってくる―
ナナ:「お待たせしました」
静:「いつもより遅いんじゃないですか?」
月下:「いつも通りですよ」
月下:「静さん、確認を」
静:「状態は、いつも通り完璧ですね。模様の復元もいつも通り。大丈夫です」
月下:「それでは、これが今回の請求書です」
月下:「期待していますよ~」
静:「(溜息)また妙な物を。後日、渡しに行きますよ」
月下:「それでは後日、お待ちしています」
 :―月下は扉を開け、闇に消えていった―
ナナ:「不思議な方ですね」
静:「不思議であり、不気味な奴ですよ」
静:「さて、お客様のご来店ですよ」
ナナ:「はい」
 :―首に太い線が入った男が入ってくる―
静:「いらっしゃいませ」
ロージ:「あれ、ここは?」
静:「喫茶店ですよ。ただの、ね」
ロージ:「喫茶店・・・・」
ロージ:「そんなはずはない!!俺は死んだんだ!!何故俺は生きている!?」
静:「落ち着いてください。お客様。私は一言もお客様は『生きている』とは申しておりません」
ロージ:「は!?」
静:「私が申したのは『ただの喫茶店です』と。それだけですよ」
ロージ:「じゃあ何故俺は呼吸をしている?言葉を発している?会話をしている?絨毯の感覚がある?思考がある?」
ロージ:「答えろ!!」
ナナ:「何か罪を犯したからではないでしょうか?」
ロージ:「罪?」
ナナ:「はい・・・・。」
ナナ:「ここは『罪を犯した者だけが入店できる喫茶店』ですから・・・・」
静:「恐らく、貴方は首を落とされてお亡くなりになられたのでは?」
 :―ロージの眼光が鋭くなる―
ロージ:「何故お前がそれを知っている」
静:「この鏡で自身の首を御覧なさい」
ロージ:「!?何だ!この線は!!」
静:「恐らく、首を切り落とされた証ではないですか?」
ロージ:「・・・・」
静:「それではお客様、カウンター席へどうぞ」
ロージ:「・・・・」
静:「どうぞ」
 :―ロージ、カウンター席に着く―
ナナ:「お水とおしぼりです。おしぼりは少し熱くなっているので、お気をつけくださいね」
ロージ:「オシボリ?」
ナナ:「このタオル・・・・布のことです!」
ロージ:「このオシボリという布は何に使えばいい」
ナナ:「手を拭くんです」
ロージ:「へえ・・・・」
 :―柱時計の音がする―
静:「12時ですか。お客様、ご注文はお決まりですか?」
ロージ:「金は無い」
ナナ:「・・・・ふふっ。大丈夫ですよ、お客様」
ロージ:「ん?」
ナナ:「代金はお金ではありませんので」
ロージ:「金じゃない?」
ナナ:「はい!」
静:「ええ」
ロージ:「そんじゃあ何かぁ?宝石とか美術品か?」
ナナ:「いいえ」
静:「違いますね」
ロージ:「じゃあ、何だよ」
静:「今は、これだけお伝えしましょう。『貴方に害があるものではありませんよ』」
ロージ:「胡散臭いな」
静:「胡散臭くても構いませんよ」
ナナ:「さてご注文を、お客様」
ロージ:「美味いものなら何でもいい」
ナナ:「えーっと・・・・」
静:「かしこまりました。ナナ、それではお客様にこれを」
ナナ:「は、はい。ビール?」
ナナ:「お待たせしました」
ロージ:「エールじゃないか!こんな所でエールを飲めるなんて最っ高だな!!」
静:「エールだけでは空腹は紛れないでしょう。昨日から仕込んでおいた甲斐がありますねぇ。ナナ、これもお願いします」
ナナ:「はい!」
ナナ:「ビーフシチューです」
ロージ:「美味そうだな!」
ナナ:「食べてみてください!静さんのお料理、とても美味しいんですよ!!」
ロージ:「こんな豪華なもん食べれるなんて、夢みたいだ」
ロージ:「そんじゃ!(シチューを食べる)」
ロージ:「美味い!!そして、(ビールを飲む)ぷはー!エールがよく進む!!」
静:「喜んで戴けた様で何よりです」
 :
 :
静:「さて、そろそろ貴方の罪を探しましょうか」
 : 
 : 
静:「その前に月下、貴方は何故まだここに居るのでしょうか」
 :―テーブル席に月下が座っている―
ナナ:「え、月下さん!?お帰りになったのでは?」
月下:「あはは・・・・。いやね、帰ろうかと思ったんですよ?帰ろうと思ったんですけどねぇ」
ナナ:「?」
月下:「面白い香りがしたんでね、観客として楽しもうかと」
ナナ:「香り?」
月下:「私ね、鼻が利くんですよ。こういう事に関しては特に・・・・ね」
ナナ:「はあ・・・・」
静:「はぁ。それでまだ居座ると」
月下:「ええ」
静:「まあ、いいでしょう」
ナナ:「いいんですか?」
静:「ええ。あいつが居た方が、今回は都合がいいかもしれません」
ナナ:「都合がいい・・・・ですか」
月下:「ふふっ。静さんがそう言うのでしたら仕方がありませんねぇ~」
静:「やっぱり気持ちが悪いので帰っていただきましょうか」
月下:「待ってくださいよ~。冗談ですから」
静:「(溜息)」
 :―ロージが言葉を発する―
ロージ:「おい、そーいや俺の罪って何だよ」
静:「それを今から探すんですよ」
ロージ:「ふーん」
静:「おや、大人しいですね。先程とは大違いだ」
ロージ:「状況を考えるのを諦めただけだ」
静:「そうですか」
ロージ:「で、探し方はどうすんだ?」
静:「え?」
ロージ:「は?」
ロージ:「だから、俺の罪の探し方だよ。お前が言ったんじゃねーか!えーと・・・・名前なんつったっけ?」
静:「『しずか』ですよ」
ロージ:「『シズカ』だな」
静:「ええ」
静:「それでは、お客様の名前は何ですか?」
ロージ:「俺の名前?」
静:「ええ、『お客様の名前』です」
ロージ:「ロージだ」
静:「ロージさんですね。ふむ。フルネームを教えていただけますか?」
ロージ:「『ロージ・ライ・メンティーラ』だが」
月下:「ほほぉ。面白いですねぇ」
静:「興味深いですね」
ロージ:「・・・・」
ナナ:「?」
ナナ:「えっと、何がですか?」
月下:「名前ですよ」
ナナ:「お名前に不思議な点は無いように思いますが・・・・」
月下:「いいえ、可笑しな点しかありませんねぇ」
静:「私も月下と同じ意見です」
ナナ:「それはどういうことですか?」
月下:「まだ教えないですよぉ~」
月下:「ヒントはあげましょう」
ナナ:「ヒント・・・・ですか」
月下:「ええ。同じ意味が3つ」
ナナ:「それってどういう・・・・」
ロージ:「おい、何が変なんだ。人の名前バカにしてんのか?」
静:「バカになどしていません。あ、そうでした。先ず聞いておきたいことがあります」
ロージ:「何だよ」
静:「嘘をついたことはありますか?」
ロージ:「そりゃあ、あるな」
月下:「言い切りますねぇ。自信たっぷりだ」
ロージ:「いきなり何なんだよ。人間、誰だって小さい嘘くらいは吐いた(ついた)ことあるだろ」
静:「生きていれば、まあ」
ナナ:「大きな嘘からふとした瞬間的な嘘まで様々ですね」
月下:「嘘つきは泥棒のはじまりって言葉は聞いたことはありますか?はい、ナナさん」
ナナ:「えっと、はい。子供が嘘や隠し事をしているときによく大人が言う言葉ですよね!」
月下:「そうだねぇ。では、その意味は知っていますか?」
ナナ:「意味ですか。確か『悪いと思わないで嘘をつく人は、泥棒をするのも平気になること』でしたっけ」
月下:「正解正解。さてさて、これから何が始まるのか見物しましょうかねぇ・・・・」
 : 
静:「ではロージさん、貴方にいくつか質問をします。私、ナナ、月下の順番で質問します。よろしいですか?」
ロージ:「ああ」
静:「それでは、質問を始めます。貴方の好きな食べ物は何ですか?」
ロージ:「肉だな」
ナナ:「では私も質問を。ロージさん、貴方が住んでいたのは町ですか?森ですか?」
ロージ:「森だ」
月下:「では私ですねぇ。君の仕事は何だったんだい?」
ロージ:「森ん中で動物を狩って、その肉を売ってた」
静:「奥さんやお子さんはまだ居ますか?」
ロージ:「いないな」
ナナ:「愛した人はいましたか?」
ロージ:「そんなの知ってどうする」
ナナ:「いたか、いないかで答えてください」
ロージ:「めんどくせーな。いたよ」
月下:「信じるものはあったのかい?」
ロージ:「無いな」
静:「最後に、好きな色はありますか?」
ロージ:「赤だ」
静:「以上となります」
ロージ:「テキトーな質問ばっかり、何なんだよ」
ナナ:「適当ではありませんよ」
ロージ:「ああ?」
ナナ:「その答えは今から現れます」
月下:「そうですねぇ、そろそろ時間ですかねぇ」
静:「ええ。答え合わせの時間にしましましょう」
静:「先ず、貴方の罪は分かりました」
ロージ:「本当か!?」
静:「ええ。でも直ぐ答え合わせはつまらないでしょう?」
月下:「確かに。もう少し楽しみたいですねぇ」
ロージ:「ふざけるな!早く教えろ!!」
月下:「まあまあ、落ち着きなよロージ君」
ナナ:「静さん、何かお手伝いできることはありますか?」
静:「それでは記録をお願いします」
ナナ:「はい」
ナナ:「えっと、どうやって記録をすれば・・・・」
静:「これを」
ナナ:「ネックレスですか?」
静:「ええ、身に着けて光景を見ていてください。そうすれば記録されるので」
月下:「さあ、始まるねぇ・・・・」
静:「さて、貴方の罪を紐解きましょうか」
 :
 :―間―
 :
静:「先ずはロージさん、貴方が処刑された理由を説明しましょう」
ロージ:「・・・・何だよ」
静:「理由はとても単純でした」
ナナ:「単純?」
月下:「ふふっ」
静:「ええ、とても・・・・ね。しかし、理由としては充分なのでしょうね」
ロージ:「まどろっこしい言い方は止めて、話進めろよ」
月下:「せっかちだねぇ」
ロージ:「ぁあ?」
月下:「気が短いとモテないですよ~」
ロージ:「今関係ねーだろが!!」
月下:「コワーイ」
ナナ:「皆様、静粛に(少し冷たく言う)」
ロージ:「っ!!・・・・」
月下:「・・・・」
月下:「ナナさんの空気が変わったねぇ。まるで別人だ(小声)」
ナナ:「静さん、続きを」
静:「ありがとうございます、ナナ」
静:「それでは続けます。改めて理由は『神への冒涜』です」
ロージ:「またそれかよ」
静:「ええ。貴方はとても大きな嘘を吐いていました」
ロージ:「嘘?何のことだ」
ナナ:「誤魔化していたと言った方がいいですか?」
ロージ:「どういうことだよ」
静:「私は奥さんやお子さんは『まだ居ますか』とお聞きしました。ではロージさんは何と答えましたか?」
ロージ:「いない」
静:「では、聞き方を変えてみましょう。奥さんやお子さんは『まだ、生きていますか』」
ロージ:「ふざけんじゃねーよ」
ナナ:「答えを、ロージさん」
ロージ:「・・・・死んだよ。もう何年も前に」
月下:「お気の毒に」
静:「そこが一つ目の鍵です。二つ目は、動物の狩りをして売っていたというところです」
ロージ:「おかしいところは無いだろ?」
月下:「普通に聞けばそうですねぇ~」
ロージ:「?」
静:「貴方はその動物が何なのか言わなかった。それは何故です?」
ロージ:「それは・・・・」
静:「狩りの対象の動物は『人間』だから。・・・・違いますか?」
ロージ:「・・・・」
月下:「沈黙は正解の証かな?」
ナナ:「ロージさん、答えを」
ロージ:「・・・・」
ナナ:「答えを」
ロージ:「・・・・ああ」
月下:「そのことは奥さんは知っていたのかい?」
ロージ:「(クスクス笑う)」
ロージ:「知るわけねーだろ、バ―――カ!!!!」
ナナ:「皮がめくれてきましたね」
月下:「ここからが見どころだねぇ」
ロージ:「最初に殺したのはあの女。その後、ギャーギャーうるせーガキを殺したよ!!その後は森に入ってきたやつを捌いたなぁ」
静:「愛したのは?」
ロージ:「美味そうな肉だけだよ!!」
ナナ:「最低ですね」
ロージ:「何か悪いか?鹿や猪を狩るのと何にも変わんねーだろ!!」
月下:「壊れてるねぇ」
ロージ:「壊れてる?俺は壊れてなんかねーよ。好物が人間の肉ってだけだよ。あははははははははははははは!!!!」
ナナ:「殺した奥様とお子様は美味しかったですか?」
ロージ:「ああ!!最っっっっ高にな!!」
ナナ:「そうですか。罪は明白ですね」
ロージ:「俺は何も悪いことはしていない!!ただ、食い物を食ってるだけだ!!」
ナナ:「下衆ですね」
ロージ:「食った奴らは皆そんなこと言ってたな」
静:「話になりませんね。まあ、元々ですが」
月下:「そろそろ歪みが来ますねぇ・・・・」
静:「そろそろこのくだらない時間を終わりましょうか」
 : 
 :―間―
 :
月下:「死んだ人間はどうするんだい?この世界線で処理できるのかい」
静:「さてね。楽観的に考えてますよ」
月下:「全く、そういう所は相変わらずですねぇ(溜息)」
静:「ナナ、アンティークのルールを覚えていますか?」
ナナ:「は、はい!」
ナナ:「アンティークのルール
ナナ:1、入店の可否は店主が決める
ナナ:2、店内での殺傷を禁ずる
ナナ:3、店のルールは絶対
ナナ:4、店内で起きたことは他言を禁ずる
ナナ:5、代金はその罪の一部を戴くこと」
静:「正解です」
ロージ:「あんだよ、ごちゃごちゃうるせーな!!」
静:「この店のルールです」
ロージ:「そんなの知るかバーーカ!!」
ナナ:「店のルールーは」
月下:「絶対ですねぇ」
静:「さて、そろそろ罪の一部を戴きましょうか」
静:「今回は、丸焼きを作りましょうか」
ナナ:「ま、丸焼き?」
月下:「ぷっ、ははははは」
月下:「今回の罪の一部、うん、そうですねぇ。あっはははは」
静:「ナナ、そのまま記録を残しておいてください。その後、月下に渡せば大丈夫なので」
ナナ:「はい、静さん」
静:「月下、依頼です」
月下:「はいはい。報酬はいただきますよ~」
静:「それは後程」
月下:「いいでしょう。では、今回は何を?」
静:「この店の維持とナナの安全の保障を」
月下:「了解ですよ~」
ロージ:「丸焼き?美味そうだなぁ。俺にも食わせろよ!!」
静:「ああ、見る影もありませんね」
静:「ナナ、月下から離れないように」
ナナ:「はい」
静:「今回丸焼きになるのは貴方ですよ?ロージさん」
ロージ:「は?」
静:「はぁ、貴方もですか。隙が・・・・ありすぎですよ!!」
ロージ:「がぁっ・・・・」
月下:「おおー。見事に膝蹴りが入りましたねぇ」
静:「そして、もう一度地獄へ落としましょう」
静:「『炎』(えん)」
ナナ:「え、今何が!?いきなりロージさんが燃え始めました!!」
ロージ:「熱いあつい熱いアツイアツイ!!!!」
月下:「醜い鳴き声ですねぇ」
静:「貴方に最後に教えて差し上げます。貴方の罪を」
ロージ:「アツイアツイアツイ・・・・」
静:「命と名前ですよ」
静:「ロージ・ライ・メンティーラ。嘘・噓・噓、名前全てが嘘。そして、命を奪いつづけたこと」
ロージ:「あ・・・・ツ・・・・ぃ・・・・」
静:「それが貴方の罪ですよ。ロージさん」
ロージ:「・・・・(無言)」
静:「嗚呼、もう聞こえていませんね。さあ、丸焼きの完成です。ただのゴミですが」
ナナ:「静さん、殺傷を・・・・?」
静:「いいえ、元から『死人に口なし』です」
静:「処理しましょう。ナナ、ここからはまだ見なくてよろしい」
ナナ:「これから何をするんですか?」
静:「罪の一部を戴くんですよ」
月下:「さ、ナナさん!少し散歩にでも行きましょう」
ナナ:「でも・・・・」
月下:「でもじゃない。君はこちら側へ来てはいけないよ」
静:「行ってらっしゃい。ナナ」
ナナ:「しずか・・・・さん?」
 : 
ナナ:静さんは純粋な子供の様な笑顔をしていました。私はなんだかその笑顔が怖くて逃げ出しました。
 : 
 :―川沿い―
月下:「それじゃあナナさん、ネックレスを預かってもいいですか?」
ナナ:「はい、お願いします・・・・」
月下:「おや、震えているね。大丈夫かい?」
ナナ:「・・・・」
ナナ:「月下さん、さっきのは何だったのでしょうか・・・・」
月下:「静さんですか?」
ナナ:「はい。いきなり炎が出て、ロージさんが」
月下:「燃えたねぇ」
ナナ:「・・・・はい」
月下:「静さんのあんな姿を見るのは初めてですか?」
ナナ:「初めてです。それに、怖かった」
月下:「そうだねぇ、私も久しぶりに見ましたねぇ」
月下:「静さんは罪を増やしたようだ」
ナナ:「それってどういう・・・・」
月下:「何十年、何百年と続けるのでしょうねぇ。あのお馬鹿さんは」
ナナ:「お馬鹿さん?」
月下:「当然、静さんですよぉ~」
ナナ:「何百年ってどういうことですか?」
月下:「そのまんまの意味さ。静さんは存在し続けている。罪を償うために」
ナナ:「それって、人じゃない」
月下:「ああ、『もう』人じゃない。だから人にはできないことができる。あの店、この世界自体が普通じゃないんですから」
ナナ:「言っている意味が・・・・分かりません」
月下:「そうですねぇ。喋りすぎましたからねぇ」
月下:「さて、気分転換に甘味でも食べてから戻りましょうか」
ナナ:「はい!」
 :
ナナ:私は知りませんでした。この時歯車が動き出していることを
 :
 :
 :―続く―

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