到達不能公園

脳科学の講義を受け持つ相生教授は、珍しい単位認定条件を設けていた。

“全十五回の講義でランダムに五回出欠を取り、その内一回でも欠席すれば単位は認めない”

という…なまじっか皆勤しか認めないより余程の出席率を見込める、アッパレと言う他ない脳科学の専門家らしい巧妙な誘導であった。おかげで大教室は毎度不本意にぎゅうぎゅう詰めだ。

中には相生翁の挑戦を受けて立つべく幾度かのサボタージュを決行し、最低限の労力で単位を狙う猛者も自ずと、当然に…略して自然に現れたが幾人かは教授に読み負けて志半ばで散っていった。
休んで何をするわけでもないのだろうが、大学生は不思議と休みたがる。俺も例外ではなく幾度かの休講チャレンジを行い、二回ほど成功していた。

そういういきさつがあって、俺は特急列車の窓辺で貧乏ゆすりをしながら学校へ向かっていた。実は今かなりまずい。ありていに言って落単のピンチだ。
先々々週は"チャレンジ"に成功した。先々週と先週は出欠確認がなかった。…四週連続で出欠を取らないのはさすがに考え難い。そのように極端な目算は最早読みとは呼べず、ただの怠惰な願望だ。

今週は"来る"。
頭ではそう理解していたのに、根が怠惰な俺はギリギリまで布団の上でユターッと過ごした結果、(寝過ごしたわけではなく、マジで布団の上で横になっていただけだ)遅れを取り戻すために定期区間内で特急料金を支払う愚を犯した。
こうしている間は何を考えても無駄なので、いつもよりせわしない車窓を茫然と眺めつつ「早く時間が過ぎ去ってほしい」やら「少しでも時間が止まってほしい」やら、何が何だかわからない祈りを小さく念じていると、車両が山あいを通り抜ける1秒にも満たない時間で妙なものが見えた。

山林の中腹に、"公園"があった。
一通りの遊具は揃った、たぶん児童公園。
ソレが"山道すらない野山"で、ぼうぼうの草を湛えていた。

公園はすぐに窓枠の外に消えた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?