見出し画像

いまいる場所から 7

夜中にトイレに行くことが多い。しかも頻繁だ。トイレに行くためにいちいち暗闇で灯りのスイッチを探すのは面倒だ。だからベッド横にセンサーライトを置いている。

スマホの照明を頼りにしたときもあった。他に方法はないかと考えていたらホームセンターでセンサーライトを見つけた。

さっそく買ってきて重宝している。

夜中に暗闇でトイレに行く際布団をはねのけて両足を床につけたあたりで感知して点灯するという仕掛けだ。説明書には人の動きを感知して灯りがつくとあった。まさにその通りだった。

説明書には「感知エリア内の温度変化に反応し、点灯します」とある。人以外の動物や車、風で動く植物などにも反応するので注意することともある。動物はわかるが車に熱はあるのか。植物もそうだ。熱を発しているのか。よくわからないが反応すると書いてあるからそうなのだろう。

寝ているベッドの傍を動物も車も走らないし植物も風で揺れたりしないから心配ない、と思っていた。今朝までは。

あれは明け方のことだった。

いつものようにトイレに行きたくなりベッドを降りた。センサーライトが反応し点灯した。その灯りをたよりに寝室を出て廊下をまっすぐ歩いてトイレに入った。用を済ませ寝室に戻りベッドに上がり布団に入った。

それからしばらくしてセンサーライトは自動的に消えて暗闇にもどった。

さて寝ようかと思っていたそのときだった。

センサーライトが点灯した。

なぜだ。

午前4時24分。覚えている。センサーライトの灯りで時計の針がはっきり見えた。そしてしばらくしてセンサーライトは何ごともなかったようにまた消えた。

暗闇が来た。

なぜだ。なぜついた。

暗闇の中、布団をガサゴソ動かしてみた。つかない。センサーは働かない。またも布団をガサゴソ動かしてみた。やっぱりつかない。ことを確かめてから今度は布団から手を出してみた。

にょき。

途端にセンサーライトが点灯した。

やっぱり。わかる。これはわかる。手を出しんだから。当たり前だ。

考えているうちにセンサーライトは予定の時間が来ましたので失礼しますとばかりに消えた。

暗闇到来。

ライトが消えれば真っ暗闇だ。暗闇の中で目を凝らして考える。

なぜだ。なぜついた。

説明書を思い出す。

「センサーは、感知エリア内の温度変化に反応し、点灯します。」

ここまではよい。それからだ。

「人以外の動物や車、風で動く植物などにも反応するため、感知エリア内に上記誤操作動源があると、電池が早く消耗する場合があります。」

人以外の動物や車、風で動く植物などにも反応するため・・・

車は通っていなかった。ベッドの横だ。

植物も置いてはいない。ベッドの横には。

あと残るのは動物だ。動く物だ。ベッドからセンサーライトまでの距離は1メートルもない。

すぐにベッドから跳ね起きてセンサーライトを点灯させる。獣のように素早くあたりを睨みつける。なめまわす。耳を澄ませ目を凝らす。しかしそこにあるのは寝る前に脱ぎ捨てた寄る辺をなくしたジャージとパンツだけだ。

何故だ。何が動いた。何に反応した。

しばらくしてセンサーライトはそろそろ失礼しますと消えてしまった。

>まるネコ堂言葉の表出2020冬合宿「いまいる場所から」より 1312文字

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?