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うそかまことか

最近、立て続けに巨大ゴキブリが現れる。一昨日の夜も、だった。夜10時を過ぎて妻の叫び声。リビングからだ。続いて二階に居た僕を呼ぶ声。何ごとかと階段を走り降りた。すでに巨大ゴキブリは居ず。そこに居たのは炬燵に寝そべっていた背後から巨大ゴキブリが現れたと引き攣った顔で訴える妻だけだった。このあたりに入った。探して。強い口調で必死の形相で訴える。戸を開け、古新聞の束やら、昔の置物やら、手当たり次第にひっくり返してはみるが、巨大ゴキブリの姿なく。30分ぐらい。そんなこと付き合わされる。疲れ果た頃合いを見はからって、今夜はもう遅いから明日にでもゴキブリ退治の強化策を、と提案。ようやく解放され静かな夜が戻る。

そして翌日。妻は朝から仕事で留守。当方は在宅。昼頃。昨夜のことを思い出してゴキブリホイホイでも買っておくかと重い腰をあげて近くのホームセンターへ。テキトーなものを見つけて帰る。ゴキブリホイホイを手に裏口のドアを開けたら、なんと、目の前に巨大ゴキブリ。静止している。動かない。くたばってるのか。慌てて裏口付近にあったホウキを手にして、静かに触れてみたら。動いた。生きてる。ここであったが百年目。取り逃がしてはならんぞ。そう叫びながら一撃。速攻で、チリトリにホウキで投げ込み屋外へ。裏庭へ。ヤレヤレである。

昨夜、妻が遭遇したリビングの炬燵付近から、本日の発見場所、裏口をドア付近、もっと言えば冷蔵庫のすぐ横あたりまではずいぶん離れている。離れてはいるが同一空間。ゴキブリくんの移動範囲としては十分にあり得ることである。たぶん、あれは、昨夜のゴキブリくんであろう。ちがいない。そうだ。そうであることにしておこう。それがいい。それで万事収まる。うまくいく。よし決めた。決定。

さっそく、仕事先の妻にLINEを送る。「巨大ゴキブリを退治しました」。すぐに妻から「今夜は安心しておこたに入れるわ(にっこり)」の返事。よかった。そしてさらに数分後、妻から「ゴキブリどこにおったん?(ゴキブリどこで発見したの?)」のメッセージ。

そこでしばらく思案。妻は極度の心配性。はっきりいって本日の巨大ゴキブリ発見場所は、昨夜の出現場所である炬燵付近からは離れている。冷蔵庫はキッチンにあり、炬燵はリビングだ。キッチンからリビングはつづいているとはいえ、炬燵は二間つづきのリビング、しかも最もキッチンから離れた対局にある。同一空間でも端と端。距離にして、どやろ、20メートル、わからん、結構ある。

しかしそんなもん、巨大ゴキブリくんはいとも簡単に移動してるやろ。夜中にそこらじゅう飛び回ってるのんとちゃうんか。そうにちがいない。とはいえ妻は極度の心配性。そんなに離れているところで見つけたんなら昨夜のゴキブリとは別人やないの?別のゴキブリやないの?と言い出しかねない。いや、その可能性は十分ある。たぶん、そうだ。きっと、そうだ。そうなるの決まってる。

ここはひとつ、炬燵から少し離れた、至近距離。何があるかな。そうだストーブ。ストーブがいい。ストーブの裏辺りが、それらしくて、いい。グッドアイデア。それがいい。そうしよう。

数分後、返信。「ストーブの裏」。以来、巨大ゴキブリの話題は、妻の口から出ていない。

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