ゴキブリとファンサービス
※虫の画像は出てこないので安心してごらんください。
懺悔も込めて。
去年の9月某日のこと。
絶賛昼夜逆転中の僕が24時間営業のスーパーに買い物に行こうとしたのが、おおよそ午前3時ぐらいだったろうか。
9月上旬の日中はみっともなくも夏に縋る残暑が鬱陶しいが、夜はかなり心地よい空気が流れていた。湿度が高くかつ涼しい、そんな独特な空気を味わえるのは、一年間でこの時期のこの時間だけだと思う。
ともあれ熱いのが極度に苦手な僕にとって、買い物に行くには絶好の時間であるのは間違いなかった。
僕が扉を開けると、外の粘り気のある大気が玄関に流れて頬を撫でていく。
と、同時に僕は"彼"を視界に捉えた。
"G"だ。
ここでいう”G”とは、税金GメンのことでもなければG☆MENSのことでもなく、はたまたG-SHOCKのことであるはずもない。決して重力エネルギー(G)が可視化したわけでもなかった。
本記事では勇気を持って実名で報道したいと思う。
僕がみた”G"とはゴキブリだ。
玄関を開けると同時にゴキブリが僕の視界に入ってきたのだった。
と、ここまで仰々しい場面描写をしておいて何だが、僕が今住んでいる地域は田舎なので、ゴキブリに遭遇することなどさして珍しくなかった。
・・・そう、珍しくなかった。だからこそ僕は彼の異変にいち早く気づいた。
ゴキブリの代名詞といえば、いうまでもなくあの恐ろしいまでの足の速さだが、彼が僕の目の前を歩くその速度はとてもゴキブリとは思えないほど重鈍で、"いかにも昆虫"といった様相だった。端的に言ってしまえばノロかったのだ。
きっと弱っているのだろう、そう推察するのが妥当だった。
しかし遅いゴキブリを初めて目にした僕は彼に対する興味を抑えられず、試しに彼に軽く息を吹きかけてみた。
すると彼はたちまち”いかにもゴキブリ”というはやさで壁際を走りそのまま闇へと消えていった。
僕はそれに感動するでも、落ち込むでもなく、何事もなかったかのようにスーパーへ向かう。
そしてその道中で僕は自分が犯した罪を恥じそして後悔することとなる。
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僕が犯した罪は二つ。
1.他人のプライベートを邪魔したこと
2. 一番嫌いな人間になってしまったこと
第一の「他人のプライベートを邪魔したこと」
彼、いや彼らは有名人だった。
日本で彼らの存在を知らないの人はほとんどいない。それほどのスーパースターだ。
そして有名人とは得てして[ON]と[OFF]がある。
芸能人にとっての[ON]は言うまでもなくメディアに露出しているとき(人前に出る時)であると言える。
ゴキブリも有名人なので当然[ON]と[OFF]があると考えるのが妥当だ。
ゴキブリにとっての[ON]とは民家に出没するとき(人前に出る時)である。
民家への突入を目の前にしたゴキブリが「よ〜し!今日もやったりますか〜!人ビビらせますか〜!」と意気込んでいる姿は想像に難くないだろう。
その数刻後、彼らは我々の目の前に出現しその”お家芸”である速さで目の前を駆け抜けていくのだ。
芸能人には[OFF]もある。いわゆるプライベートというやつだ。しかし職業柄、不当にプライベートが侵されることも少なくない。
そして何よりゴキブリにも[OFF]があった。それを把握していなかったのが僕の最大の過ちいえる。
彼らにとって民家に出没するのが[ON]であるならば、それ以外は[OFF]である。そんな当たり前なことにも想像力が及ばなかった自分を恥じる。
我々愚かな一般庶民は得てして[OFF]の有名人に[ON]を求める。
そして少しでも[ON]と[OFF]との間にギャップがあると、勝手にがっかりしたり、怒りだしたりする。
そう、僕は[OFF]でのんびりプライベートを満喫している彼に[ON]の速さを求めてしまったのだ。
それが僕の1個目の罪。
僕は愚かだった。
芸能人のプライベートが人並みに人ならば、ゴキブリのプライベートだって昆虫並みに昆虫であるのは当たり前だ。
それなのに僕は、街ゆく芸能人に声をかけ
「〇〇さ〜ん、いつものあのギャグやってくださいよwwwww」
と横柄な態度を取る人がごとく、
「ゴキブリさ〜ん、いつものあの速さ見せてくださいよwwwww」
と息を吹きかけてしまったのだ。
僕は人の気持ちも考えず、プライベートに踏み込む人間が大嫌いだ。
しかし他でもない僕自身がそれだったのだ。
これが2つ目の罪「一番嫌いな人間になってしまったこと」
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しかし(決して開き直るつもりはないが)こういう捉え方もできるのではないだろうか。
こんな愚かな人間の振りにも全力で応えるゴキブリの寛大さたるや。
無視して当然の絡みにも"お家芸”で応じるそのさまはさすが芸歴数億年の大御所と言える。
今度万が一お会いした際は敬意を持ち胸を借りるつもりで戦いに挑みたいと思う。
おわり
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