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そうだ、反逆しよう。~ペルソナ5 ザ・ロイヤル感想~



ネタバレ無し オタクすぐ人生の話する


 オタクの主語はデカい。既に書き出しの一文から主語がデカい。だから、ここで「この作品が自分の人生を変えた」と叫んだところで、右から左へスルーされるのがオチだろう。いや、そのスタンス自体は全くもって正しい。ぜひともその流しそうめんソウルで、共に辛く厳しい現代社会を生き抜いていこうではないか。
 閑話休題。ペルソナシリーズ無くして自分の今はあり得ない。出会いは一つ前のナンバリング作品、ペルソナ4 ザ・ゴールデン(P4G)だった。

 ペルソナシリーズではユング・フロイト心理学の理論が多く用いられている。P4Gでは追加要素である「江戸川先生の放送教室」で、解説を見る事ができる。この放送教室を見てなんとなく心理学に興味を持ち、遊んだり積んだりを繰り返して来た。
 そんな自分がずっぷり心理学沼にはまるきっかけになったのが、今回紹介するペルソナ5、ひいてはペルソナ5 ザ・ロイヤルである。

 2016年にPS3/PS4で発売されたペルソナ5をさらにパワーアップ。2019年にPS4、2022年にSwitch、Steam他で追加ストーリー、キャラクターを加えた、ザ・ロイヤルが発売された。ジャンルはピカレスク・ジュブナイル。その名の通り、悪党を主人公とする十代向けの作品ということになっている。ざっとストーリーを紹介しよう。

 とある事件で冤罪を負った主人公。知り合いのツテを頼って、居候となり、秀尽(しゅうじん)学園高校の転入生として1年間の保護観察期間を過ごすこととなる。心の具現”ペルソナ”を手に入れた主人公は、世界の理不尽に抗う仲間たちと共に、心の怪盗団を設立。”世直し”に奔走することとなる。

 ストーリーがハチャメチャに面白いのはもちろん、集合的無意識、ペルソナ、シャドウ、認知……などの心理学の要素を拾い上げ、独自かつ面白い解釈や展開が組み上げられていく様は圧巻だった。素人考えながら、心理学への入り口としても素晴らしい作品だと思う。沼入りした人間が保証する。

 作中では、ピカレスク・ジュブナイルの名に恥じぬ、堂々たる悪人が多数登場する。序盤で警察が一般市民(主人公)をボコボコにするシーンは、映画「JOKER」の冒頭を彷彿とさせるような、あけすけな悪意をぶつけてくる。主人公は世間を騒がせた神出鬼没の怪盗、つまるところは犯罪者ではあるのだが、それにしたって相手の態度は度を越している。これはぜひ実際のプレイで体験していただきたい。恐ろしくも、端的に作品の空気感を伝えてくれる、良い舞台装置の役割を果たしてくれている。

 ↑ わき道に逸れたが参考まで。34秒あたりから冒頭のシーン。
独りの男が、誰からも顧みられず転落していく悲哀を描いた名作である。

 仲間たちだけでなく、作中で交流を持つことになる(コーポレーション相手、単にコープ相手とも。従来シリーズではコミュと呼ばれている)人々も世に蔓延る悪意に打ちのめされてきた過去を持つ。
 被害者を助けることにフォーカスしてきたP4、タルタロスの攻略が主な活動だったP3とは異なり、P5はパレスという歪んだ欲望を持つ人物が形成するダンジョンが登場し、核となる”オタカラ”の奪取、パレスの主(シャドウとも呼ばれる。本人が自覚していない本性)との戦闘が攻略の流れとなる。これまでのシリーズより、各ダンジョンの”悪役”がはっきりしているように感じる。悪というフィルターを通して世界を切り取り、その中の明暗を描き出そうとしているように見えるのだ。

 主人公たちは、腐った大人、圧力、社会へ反逆するべく、その力を行使する。しかし、踏みにじられたことへ憎悪し、怒りを加害者にぶつけることだけが、解決方法なのだろうか。それだけが正しい事なのだろうか。
 ”悪役”たちが改心され、転落していく様の受け取り方は人によりけりだと思った。スッキリ解決したと受け取るか、すこしモヤモヤを抱えながら終わるか。受け取る人、時期によっても異なるだろう。100%悪くない人などいないし、逆もまた然りだ。それでも、そうだとしても、正しい事を模索し続ける怪盗団の道行きは曲がりながらも真っすぐで、胸が熱くなる。

 誰からも信じてもらえず、前科者と遠巻きにされてきた主人公。そんな彼が、一年の軌跡の中で友人や仲間に出会い、数々の苦難を跳ねのけ、紡いだ絆で運命を変える様には、魂が震えた。誇張抜きで大泣きした。絆とか運命を変えるとかそういうワードには様々な理由で弱くなっている(いつか記事で紹介したい)が、そうじゃなくてもボロボロになる破壊力はあると思う。

 すこしゲームの部分についても話をしておこう。ペルソナの戦闘は、従来のそれぞれのペルソナによる魔法攻撃、武器による物理攻撃に加えて、新しく銃撃コマンドが選択できるようになっている。一戦闘で使える銃弾は限られているが、戦略に幅が出た。うまく相手の弱点を突き、ダウン状態にできれば、もう一行動取ることができるし、全員ダウンに追い込むことができれば、全員に大ダメージを与える「総攻撃」から、交渉して、金やアイテムのカツアゲや自分の手持ちペルソナとしてGETすることまで可能である。
 そして、怪盗の身のこなしを生かした戦闘・ダンジョン攻略が気軽にできる点も嬉しい。物陰に隠れて敵をやり過ごしたり、急襲するカバーアクション。シャンデリアへ飛び移ったり、通気口に潜るなどの怪盗あるあるなアクションも、これらすべてAボタンを押すだけでお手軽にかっこよく出来てしまう。
 ワイヤーを生かしたアクロバット移動もLボタンでお手軽に済み、ワンボタンでスタイリッシュにターンエンドだ。嬉しい。
 何よりめちゃくちゃかっこいい。めちゃくちゃかっこいいのである。これがデカい。3Dアクション下手くそ芸人でも永遠にカッコつけられる。この爽快感は、ぜひとも実際に体験してほしい。

 プレイ時間はEasyで90時間程度だった。途中で雑魚戦をショトカできるスキルを手に入れたため、真面目に戦闘すればもう少しかかると思われる。7000円台と少し割高だが、ぜひ高校生活を謳歌してほしい。過酷な運命、頼もしい仲間が、あなたを待っている。

画像はサムネにしたクリア記念コラージュ。
ぱっとしないのでいつか作り直したい。

ネタバレアリ リベリオンにはならない


 このゲームを人生と呼ぶのには前述の他にも理由がある。全く持って動機が不純でお恥ずかしい限りなのだが、応援している声優さんがようやくシリーズに参加したからである。その方が演じるキャラクターに直面して、彼の面白さ、美しさ、高潔さ、ひたむきさに雷に打たれるような思いがした。

 その彼とは、ご存じ怪盗団の芸術家、喜多川祐介である。

 面白いくらい狂わされた。常に喜多川祐介の事を考えながら生活していた。無印しか出ていない時、対応ハードを持っていなかったために、本当にめちゃくちゃで黒歴史な挙動を披露していたと思う。友人たちにはこの場を借りて謝罪させていただきたい。ごめんて。今は多少落ち着いたと思うが、落ち着いたところで様子がおかしいオタクである事に何ら変わりはない。

 美を追い求める彼は、その思いが強すぎることが災いして、スランプに陥ってしまう。彼のスランプを解消するため、モチーフを見に行ったり、一緒に奇行を行うなどがざっとしたコープ内容である。
 P5Rではなく、無印のP5の時空にはなってしまうのだが、P5終了時から半年後の物語であるペルソナ5スクランブル(ペルソナ無双)では、彼の創作者としての姿勢について話を聞くことができる。

 あくまで本文はP5Rの紹介であるため、ここではさらっと流すくらいにとどめる。「創作者は孤独だ」と前置いてから、同じく創作者である相手を対等に見つめ、叱咤激励する姿を見て、そこに喜多川祐介を好きな理由が詰まっていると思った。

 彼は孤独だ。唯一の肉親を早くに喪い、師匠に育てられたが、その信頼関係も手酷く裏切られた。彼自身必要な断罪だったと認識していたとしても、十数年親同然に慕ってきた人の裏切りと離別は相当大きいものであっただろう。
 物を創りだすという行為は、究極的には己との勝負になる。今持ちうるすべての技術、力量、知識、センスが引きずり出され、小手先の技術などではとても話にならない。
 そんなサドンデスマッチに、少しでも万全な体制で挑むにはどうしても人の力がいる。衣食住や道具を整えてもらうことも大切だが、人との交流の中で己という刃を研いでいく必要がある。
 師匠との関係が大きかった祐介は、その関係を失ったことで自身の刃を磨く機会を一度喪失した。その結果、スランプが発生する。しかし、主人公や怪盗団との交流を経て、徐々に自身のバランスを持ち直していくことが出来たのだと思う。そしてその経験があったからこそ、同じ創作者だったからこそ、誰よりも厳しく、優しい言葉をかけることが出来たのだ。
 祐介は一見、否、何度見ても変わり者ではあるのだが、彼の信念や正義について考えながら見ていると、少し彼の言動について理解できる気がする。痛みを抱えながら前に進むことが、人を人たらしめ、人生を人生たらしめるのだろう。

 痛みの話をするのであれば、丸喜の話もしなければならない。彼は本当に厄介だった。明確に”悪役”を演じ、悪意を振りまいてきたこれまでのパレスの主とは異なり、悪意や痛みから人々を守るべく立ち上がった善人だったのだから。
 明確な善とは言い切れないが、悪とも言い切れない。逃げることは悪いことではない、という言葉が最悪の方向に解釈され、気分は地獄展開のマリアージュ~おしまいの状況を添えて~である。しかし、RPGゲームで記述トリックを仕掛けてくるとは思わなんだ。まんまと引っかかった。状況は変わらず最悪だったのだが。
 明智と再び肩を並べて、SHOWTIMEをキメることが主人公の望みだったのかと思うと、なんだか切なくもいじらしい。プレイヤーも同じこと考えてた。
 最後の最後まで丸喜はいいキャラクターだった。”悪役”側からだけではなく、中立側からでもなく、善人側から問いを投げかけることによってしか、浮かび上がらないそれぞれの主人公像があったと思う。丸喜ィ! コープ9以上にしないと三学期作ってくれないってマジぃ?

 クリティカル率を上げる補助技、リベリオン。改めて意味について調べてみると反逆とある。しかし、不成功に終わった謀反を指す場合が多いらしい。青春をかけた反逆を踏みつぶさせてたまるか。何もなかったことにさせてたまるか。何度でも抗い、運命をひっくり返していこう。
 俺たちは、リベリオンにはならない。

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