ショートショート(37話目)裏山の宝
納屋を掃除していると、1枚の古い紙切れが出てきた。
その紙切れは、どうやらここから3kmほど離れた裏山の地図のようだった。
裏山にあるご神木が地図には描かれていて、ご神木の根元のところに『宝』と書いてある。
これは宝の地図ではないかと僕は思った。
僕は納屋にあるスコップを手に、裏山へと向かった。
~~~
木漏れ日が差し込んだ裏山は、どこか幻想的な雰囲気を醸し出していた。
ここにくるのはいったい何十年ぶりだろう。
幼少期の頃は散歩がてらによくきていた裏山も、年を増すごとに訪れることは少なくなっていた。
目的地であるご神木の前まできた僕は、スコップを置いて近くにある切り株に腰を掛けた。何年も人がこなかったせいか、植物のつるがそこらじゅうを覆っている。また、日当たりがあまりよくないせいか空気は湿り気を含んでいた。
僕はご神木の根本から3mほど離れたところをスコップで掘り始めた。
最初、土が柔らかく掘りやすかったが、徐々に土が硬質化してきて掘りづらくなってきた。
1時間ほどかけて1立方メートルほどの穴を掘ったところで僕は休憩をすることにした。水筒をもってくればよかったと思った。近くに湧き水はないかと探したが、残念ながら見当たらなかった。
焦ることはない。今日は、このへんで終わりにしよう。
また明日来て、穴掘りの続きをしよう。
~翌日~
霧雨が降っていた。
裏山のご神木の前には、昨日起きっぱなしにしておいたスコップがあった。さて、引き続き穴を掘るとしよう。
宝の地図には、どの方角に埋めたという表記はなかった。
だから、ご神木の周りをひたすら掘っていくしかない。
宝の地図の紙質を見る限り、相当古い。
目の前のご神木が樹齢何年かはわからないが、おそらくご神木がまだこれほど成長していないときに宝は埋められたのだろう。
僕はその日、昨日掘った1立方メートルの穴の横に、同じものを2つ掘って作業を終えた。
もしも宝が地中10メートルくらいに埋められていたとしたら、宝の発見までにはかなりの時間がかかることになる。
焦ることはない。ゆっくりと進めよう。
水筒の水を飲みながら、僕はそう思った。
~翌週~
深さ1メートルの穴をご神木の周り中堀ってみたが、宝は出てこなかった。
もっと深くに宝を埋めたのだろうと思い、僕は堀った穴を更に深く掘ることにした。
穴の深さが1.5mを超えてから、土を運び出すのが困難になってきた。
もしかしたら、ご神木からもう少し離れたところに埋めたのかもしれない。そうなると、宝を見つけるまでにはだいぶ時間がかかりそうだ。
僕はひたすら穴を掘った。
ひたすら、ひたすら、穴を掘った。
~2か月後~
もしかしたら、宝があるということ自体が嘘だったのではないかとさえ思い始めていた。
穴の深さは3mを超え、ご神木から半径10mまでの距離の場所は掘り切ったが宝は現れなかった。
考えてみれば、こんな山の中に宝があると考えていたほうがどうかしていたのかもしれない。
手のひらは連日の作業で皮がむけ、血豆ができていた。
「クソッ!!」
僕はスコップを投げた。
投げたスコップが土に刺さって『カン』という音が鳴った。
妙な音だった。
僕はスコップが刺さったほうに歩いた。
スコップが刺さっている先に、金色のなにかがみえた。
丁寧に泥を払うと、そこに金があった。
僕はその周りを急いでスコップで掘った。
「カン」「カン」「カン」と、次々に金属音がする。
これは、金塊だ。
なるべく金塊を傷つけないように、周囲を掘り進めていく。
掘り進めて2時間後、とうとう金をすべて掘り起こした。
重さにして50kgはくだらないだろう。
僕は切り株に腰を掛けて、金を見た。
何百年と土のなかで眠っていただろうに、金は色あせずにそこにあった。
こんな大量の金があるのに、この島では用無しとは、残酷なものだ。
いま、この島にいるのは僕だけだ。
この島には通信手段もなければ、船もこない。
10年ほど前、わずかにいた島民は全員本土へ移住したが、僕はこの島が好きだったから、自給自足をしてでもこの島に残ることを決めた。
だから、どれだけ大量の金があっても、この島では価値がないのだ。
それにしても…。
この金は誰が埋めたのだろうか。
まだ、この島に船の往来があった頃、誰かが持ち込んだのだろうか。
~1か月後~
僕は掘り起こした金を再び土の中に戻した。
もしかしたら、今後あの金が必要な人がこの島に現れるかもしれないと思ったからだ。
宝の地図には、今後宝さがしをした人が見つけやすいように一筆書きこんでおいた。
島の天気は快晴だった。
また、そのうち裏山にいこうと、僕は思った。
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