日本酒と肴の怒涛の3時間!【酒 秀次郎】 お酒好きの”余白”をおさえたネオ酒場
完全紹介制、予約受付は月に1度だけ、3時間おまかせコース、日本酒付き9000円(税込)のみ。ここ最近、お酒好きの間で評判となっている恵比寿の日本酒居酒屋「酒 秀治郎」さん。
ーー日本酒好きの、日本酒好きによる、日本酒好きのための店。
そんなコンセプトを掲げるお店にお邪魔し、たらふく(本当にたらふく)味わってきました。 大満足のコースをレポートします!
今年で4周年!常に予約満席の人気店
場所は恵比寿と代官山の中間あたり。18時開店で、全席一斉スタートです。
料理店で「一斉スタート」と聞くと、ひとりの大将のワンオペ(+α)スタイルを想像してしまいますが、入ってみると店内は結構広め。長いカウンターに加えてテーブルが数個あり、席は全部で20ほどあります。店内の空気は「ガヤガヤ」した居酒屋さんのそれです。
カウンターの上には「升」が積み重なっています。お店を訪れた著名人のサインが書かれているのですが…8割は「酒蔵の人」の名前。「ああ、あの蔵も、あの蔵も!!」と、日本酒好きなら反応せずにはいられません。
お酒泥棒のつまみVSどんどん出てくるお酒
料理はコース制、では日本酒はというと「日本酒担当の女将さんが、お客さんの飲み具合を見て(ガンガン)注いでくる」スタイルです。オーダーとかではなく、美味しいお酒が向こうからやってきます。
スタートは「風の森」、間違いなくおいしいです。
お酒は片口やお銚子に注いで提供されます。飲み終わる前に次のお酒の片口がでてくるので、自分達の座る席には常に2銘柄くらいのお酒が居続けることになります。最初は天国のようなシステムだと感じますが、本当にガンガンでてくるので、次第に空恐ろしくなります。
もちろん「少なめ」や「ストップ」、さらには「ノンアル」も可能です。自分の好きなだけ日本酒を楽しめるというわけです。
カウンターには3つの酒器(陶器の平盃・ガラスの丸いグラス、磁器のストレート型)が置かれていて、これが基本装備となります。「3つの酒器でいろいろ比べて飲んでみてくださいね」とのこと。
スターターキットの1皿目がこちら、いきなり5品のプレートです。漬物、煮豆、味噌汁、ホタルイカご飯…日本酒を飲むために存在している面々。入店してまだ10分程ですが、もう結構好きです。
次のお酒は「あたごのまつ ひと夏の恋」。きれいでまろやかで、先ほどのつまみが引き立ちます。この、コースで2番手くらいにやってくるお酒が、派手じゃないけどきれいでバランスあって、いい職人な感じがして好きです。
間髪入れず(風の森を飲み切った瞬間)に、もうきました。萩野酒造(日輪田などの実力蔵)が出している「メガネ専用」です。造り手全員がメガネだからという一品。アルコール14度と軽め。序盤にぴったりなお酒ばかりをセレクトいただきました。
最強つまみプレートVS人気日本酒のオンパレード
1品目の「おつまみ盛り」の次は、「(もっとすごい)おつまみ盛り」がきました。おかみさん曰く「これで4合いける」とのこと。いろいろな味をちょっとずつ、お酒とあわせながら楽しみたいという、お酒好き、それも日本酒好きの気持ちをぐっと掴みます。
次にやってきたのは「飲んで応援しましょう!」と、茨城県の「結ゆい」。実は結城酒造さんは、2022年に火災で焼してしまった蔵。いまも復旧の真っ最中とのこと。「飲んで応援」はもちろんですが、店内のあちこちで復興募金(という缶バッチ購入)が行われていました。
まだまだ続きます!広島県「雨後(うご)の月」。徐々にすっきりから芯が強いお酒に移行してきていて、つまみがよく進みます。
飲むピッチが異様に早いようですが、カウンターには飲み切っていないお酒も残っており、比較的のんびりと楽しめます。
お酒の種類×酒器のタイプ×つまみでいろいろな組み合わせで遊んでいるうちに次のお酒や料理がでてくる、といったリズムです。
秀治郎の素顔は「スイーツ屋さん」だった?
お店の壁にみつけた「アップルクッキー」のチラシ。日本酒居酒屋さんには似つかわしくない印象です…。
女将「ああ、姉妹店です」
……なんと、『酒 秀治郎』は、世田谷発のアップルクッキー店「GRANNY SMITH」の姉妹店。スイーツを中心にさまざまな飲食店を手掛けるFUNGO社系列なのだそうです。「全然違うじゃないか…!」と思いましたが、その通り、系列で日本酒がメインなお店はここのみとのこと。
店名になっている「秀治郎」の名前の正体は、日本酒愛好家であり、FUNGOの代表と知り合いというデザイナーの直野秀治郎氏。FUNGOの代表と手を組み、自身の日本酒愛を詰め込んだお店をつくったのだそうです。※ちなみに普段はあまりお店にいないそう
てっきり、日本酒好きな頑固親父が、自分のルールで好きにやるこだわりの塊のようなお店だと思っていました。
でも、いい。全然いいです。おいしいんですから。「個人のお店の方がおいしそう」という妙な偏見をもっていた自分が恥ずかしくなります。
後半戦、料理もお酒もさらにパワフルに
ここから(ようやく)後半戦!揚げたての「ごぼうメンチ」を塩でいただきます。
お酒は、お肉のパンチに負けない「古代米」を使った赤い「伊根満開」。きれいめタイプなお酒が多かった前半から一転、個性派タイプです。
「揚げ物はぜひ熱いうちにおたべください。あ、(残っている)おつまみの小皿は残していて大丈夫ですよ」とスタッフの方。
一斉スタートのコース料理の場合、進行に合わせて急いで食べるすることがあるのですが、秀治郎では、(料理は出てくるものの)自分のペースでのんびりいただけます。ちびちび楽しみたい小鉢が残っていたので、本当にありがたいです。
熱燗もでてきます。周りの席の状況を見てみると、料理は同じでもお酒は結構バラバラ。料理にあわせたり、順番が少し違ったり、あとは好みでチョイスしてくれたり、特定の銘柄をリクエストしたりと、ひと組ひと組にお酒を選んでくれます。
こだわりの隙間にある「余白」で、お酒が一層楽しなる
このあたりまでくるともうメモもなにも残っていないのですが、豚肉です。濃いめの味付けが先ほどの熱燗にぴったりはまりました。
「酒 秀次郎」、とてもいいです。満足でいっぱいで楽しいです。
なぜ、こんなに楽しいんだろう?
日本酒オールスターとでもいうべき人気かつバラエティ豊かなお酒、多彩なおつまみ、ホスピタリティ…。それだけではなく、お店の提供する「余白」にも、楽しさの理由があるのかも、と思います。
例えば、お酒は基本おまかせだけど、選ぶこともできる。酒器は3つ用意されているが、どれで飲むかは自由。一斉コースだが、食べるペースや自由。
もし「究極のこだわりを提供する!」といった情熱的なお店だとしたら、お酒は一杯ずつ、最高の酒器をお店が選び、最高の温度にし、料理の食べ合わせも完璧にして…最高のタイミングでといった具合に、味わい方はどんどん尖っていくでしょう。
もちろんそれも最高だけど、「こだわってもいいし、ラフでもいい、最後はゆだねます」というお酒を好きに楽しめる”余白”が、酒 秀治郎からは感じることができます。
しかも、手数がすごい!
しかも、それら余白の存在に気づかないほど、料理もお酒もガンガンでてきます。お腹はち切れそうで、もう無理、飲めない、となるくらいまで。
「数は質を凌駕する」といいますが、まさにそれ。気を張らなくていい、心地よいおいしさが、3時間にわたり怒涛のように押しかけてくるのです。
完璧に固めすぎず、だけど満足がすごい。そんなところが、最近の気分にとても合っていました。
お酒好で元気になる人気店
紹介制、予約制、コース一本、一回転のみ。そんな情報から感じるハードルの高さからは想像できないほど、自分の心地いい楽しみ方ができる。お酒を飲んで元気になれる、そんなお店でした。
酒 秀治郎さん、ごちそうさまでした!
もちろん、お酒を飲みます。