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禁断の「開けたあと熟成日本酒」が飲める!地酒屋こだま「こだまのねんりん」(大塚)

小さな飲み屋が好きです。特に、店主の人柄や思想がそのままグラスに入ってでてくるような店が。

今回は、僕の好きな酒屋さんが、ひっそりとお店の2階ではじめた、とても趣味的な空間を紹介します。

東京・大塚。地酒屋こだまの店主・児玉さんが今年オープンした「こだまのねんりん」。「本当の一期一会の熟成酒が飲める」秘密基地です。


お酒のチューニングが楽しい「地酒屋こだま」

大塚駅から徒歩数分の距離にある、地酒専門店「地酒屋こだま」です。

以前訪れた時の店内。今は整理されて広々となりました

決して広くない店内には、店主・児玉さんがひとつひとつセレクトし、応援すると決めた全国の酒蔵のお酒がぎっしりならびます。

私の考える「地酒屋こだま」の最大のポイントは「自家熟成によるチューニング」です。よく日本酒は「早く飲まなければ悪くなる(=味が変わる)」といわれますが、児玉さんは仕入れたお酒を利き酒し、店頭に出す時期を調整します。例えば、日本酒の「ひやおろし(夏の間寝かせたお酒)」も、ものによっては「2夏こえた(+1年寝かせた)ひやおろし」として出すなど、時には年単位でチューニングを行っているのです。

日本酒はもちろん酒蔵さんが出す「商品」なのですが、それ以上に「僕はこの味がおいしいと思うけどどう?」という、より「嗜好」を楽しませてくれるのが、好きなポイントです。

さらに、ほぼすべての日本酒を「実際に試飲して選べる」というのも、他にはまずない点です。「(有名無名に関わらず)おもしろい日本酒どこで買えばいい?」と聞かれたら、まず名前を挙げます。

※「酒屋さん」としてのこだまさんについては、こちらに説明しています。

酒屋さんの2階にある、とっても入りにくい空間

くらい

でも、今日は酒屋ではなく飲み屋さんへ。お店にははいらず、雑居ビルの玄関ドアにはいります。

これが「こだまのねんりん」の内部。テーマカラーであろう、オレンジを基調としたカウンターの中に立つのが、店主の児玉さんです。

客席はカウンター数席のみ。お酒が密集している酒屋さんと比べると、広々しています。そもそも「多くの人を入れよう」と思っていない、とすら見えます。

開栓後・熟成酒? を味わえるマニアックな実験場

店主の児玉さん

ここで、「こだまのねんりん」を紹介します。営業は金と土、夕方の18〜20時、4席のみ、完全予約制。お酒はおまかせのみ。

つまり、どっぷりと「地酒屋こだま」さんのセレクトやセンスが好きな人に向けた、とてもクローズドな日本酒の実験空間、という位置付けです。

テーマは「変わった熟成酒」。

前記しましたが、「地酒屋こだま」では、ほぼすべてのお酒が「試飲」できます。つまりテイスティング用に、1瓶お店の方で「開栓」しているということです。しかし、販売用の商品本数がなくなるのと、開栓した試飲用のお酒がなくなるのが、必ずしも同時とは限りません。

そういう半端に残った「開栓したけど残っているお酒」を、こだまさんは自宅倉庫に保管(放置)してきました。その数、創業から13年で約800本。この「開栓後、常温で熟成した日本酒」を飲ませてくる場所が、ここ「ねんりん」というわけです。

もちろん、新酒の味とは全然違いますし、人やお店によっては商品にならないという考えもあります。「酒蔵の人が造ったときの狙いの味ではないんですけどね、個人としてこういう楽しみもいいかなと」(児玉さん)。一方それこそ味わいたいというファンもいるのが、日本酒の面白いところです。

再現性ゼロ、児玉さんの嗜好の空間におじゃましたような時間。ここからその一部をざーっとレポートします。

天明(福島) 9年熟成

おまかせの1杯目は、福島県の「天明 純米吟醸」。9年開栓熟成です。

これを、今日は(いろいろ出しからを試行錯誤しているとのこと)「常温」「熱燗」の飲み比べでいただきます。

新酒のときの天明はフレッシュで甘酸っぱい印象ですが、9年ものはめちゃくちゃしっとりなめらかで、やさしくなります。そして熱燗にするとまるで蜜。甘味がぎゅっと詰まります。

おつまみはこんな感じです。左は「味噌」です。味噌をちびちびなめながら熱燗をいただけるなんて、たまらないです。

十六代九郎右衛門(長野) 7年熟成

次は長野のお酒。このブランドは「International Wine Challenge(IWC)」のSAKE部門(ワインコンテストにそんな部門あるの、と思うのですが、あるんです。すごく熱い賞です)で、2023年のチャンピオンに輝いた、今話題のお酒。

それの平成26年に醸したお酒です。味は濃厚でがっつり甘く、デザートワインみたい。熱燗の方は…こちらは逆に「落ち着いた」味になります。出汁っぽい旨みが出てきます。お酒によって変化が違うんですね、面白い。

東鶴(佐賀) 9年熟成

続いては、フレッシュな味わいの「新酒」で「うすにごり」をそのまま開栓熟成。日本酒を完全に濾過せず「おり」が混じっているタイプのお酒です。

味は…9年もので大きく変わっているはずですが、意外にもソフトで飲みやすい味。熱燗にすると、少し焦げ臭く、ビターな感じです。へー、面白い。

ちなみに熱燗は、やや「熱め」で出てきます。常温と比べながらちびちび飲んでいると、だんだんと温度が下がり、また味も変わってくるので面白いものです。

「日本酒は、一度温度を上げてから下がったものは、味のトゲトゲが取れて丸くなるんですよ。そのあたりもぜひ楽しんで」(児玉さん)

篠峯(奈良) 8年熟成

次は「ドライな辛口、最近しっかりと辛口に向き合う蔵が増えてきた」というお酒。「辛口」とはつまり、しっかり糖分をアルコール発酵させたもののため、熟成により変わる要素(糖分など)が少なくなっているお酒です。

先ほどまでの驚くような甘さはなく、しっとり落ち着いた味です。熱燗にしても同じ、膨らんだり開いたりするわけではなく、ドライなままの味わい。なんだか不思議ですが、肉と合わせたくなる味です。

山の壽(福岡) 12年熟成

このあたりからメモがなく、はしょります。福岡の山の壽、個人的にも好きな、フルーティーでかろやかなお酒です。

それが自家熟成すると…まるでラム酒。とろっとした液体の奥の方から、熟したいちごみたいなものが顔を出します。おもしろい!

勢正宗(長野)無濾過生原酒 11年

「冷蔵保存必須」「早く飲め」といわれる無濾過生原酒も、開栓後自家熟成です。

もう、裏ラベルもかすれて読めない

お酒の順番は児玉さんおまかせですが、そこにもこだわりがあります。

「お酒コースのセオリーは『軽いもの→重いもの』だけど、熟成酒の場合は味のタイプが異なるものを『ジグザグ』に出しています。味になれず、飲むたびに『面白い!』と思ってもらえると」(児玉さん)

ガチで、一期一会の一杯に出合える場所

お酒の特徴を力説する児玉さん。聞きながら味わうのもまたおもしろいです

いただいたお酒は、だいたい4合(小さい瓶1本くらい)。「次はなに出そうかな…」と、児玉さんが企む様子を見ながら待ち、解説を聞きながら「へー、こんな味なんだ!」と驚き続ける、とても楽しい時間でした。

日本酒のお店に行くと、たまに「他では飲めない幻のお酒」なんて文字を目にしますが、「こだまのねんりん」で飲める日本酒は、そんなもんじゃないです。

・普通、お店ではまずない、開栓後熟成
・もともと試飲用のため、量が瓶1本分もないくらい
・倉庫からたまたま発掘された&たまたま他の人でなくならなかった

これらがかけ合わさった、本当の意味での一期一会を楽しみました。

地酒屋こだまの2F「こだまのねんりん」。
「未知のお酒」にテンションの上がる人に、おすすめしたいお店です。

同じものは二度と見られないであろう、今日のお酒

児玉さん、ごちそうさまでした。
また変なお酒飲ませてください。


(おまけ)地酒屋こだま、ひろくなってます

熟成酒や一部冷蔵庫が2Fの店舗に移動したので、1Fの地酒屋こだまさん広くなっていました!


もちろん、お酒を飲みます。