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【僕が日本酒をつくる理由】「村井醸造」蔵人・臼井さんと親方の4年間(真上)

茨城県の真壁町で12代続く「村井醸造」(代表銘柄:真壁・公明)で働く臼井卓ニさん。30代で異業種から酒造りの世界へ飛び込んだという異色の経歴を持つ現役蔵人に、話を聞きました。酒造りへの考えや、南部杜氏の親方の話、新ブランド「真上」などについて語ってくれました。

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若手蔵人として、4期目の酒造りがはじまる

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午前7:30に駅で待ち合わせ、車で蔵まで送っていただきました

おはようございます。いきましょうか。毎朝、車で通勤しています。普段の通勤時間はこれより少し遅いくらいかな。

蔵には、社長と、帳簿管理などを行っている70代の方と、僕と、あとアルバイトに来ている人と、季節労働のベテランさんがいます。造りの季節になると、南部杜氏の親方(伊藤政美さん)が来てくれます。でも、常に蔵にいる社員は実質僕ひとり。だから風邪ひけないですね。

(道中窓の外を指して)あ、セイコーマート。茨城県ってなぜか北海道のセイコーマートがあるんですよ。あと、通勤中に運がよければ富士山が見えます。それが通勤の楽しみです。

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タイムカード押してきます、と臼井さん

あれ、機械音がしますね。もう精米やってる。はやいなぁ。

先日、今期の酒造りがはじまりました。最初の造りの蒸米のとき、蒸気がぶわーーーって上るのを見ると、「はじまったなー」って感じます。

30代、法律の世界から酒造りへ

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ーー臼井さんは、もともとお酒造りを学ばれていたのですか?

いえ、僕、大学は法学部だったんですよ。だけど法律の世界ではうまくいかなくて、ずっと燻っていましたし、ストレスも多かったです。そうこうしているうちに30歳になって、これから会社員になることも想像できなかった。

なら、自分の好きなことをしようって。

その時期、片っ端から本を読んでいたのですが、たまたま酒蔵を取り上げた本に出会ったんです。ほら、本とかだと、杜氏ってかっこよく登場するじゃないですか。いいなって。

もともと日本酒は好きで、自分にとって特別なお酒でした。それに、うちの母は発酵食品が好きで、発酵というものがずっと身近にありました。

そういうさまざまなものが重なって、じゃあ、日本酒の職人しかないなって。

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30を超えての異業種への転職でしたので、最初は反対されましたね。

当時の彼女で今のかみさんにも、兄貴にも。でも母だけは「いいんじゃない?」って背中を押してくれました。別の酒蔵での仕事を経て、村井醸造にはいって今は4年目です。

大学のときは、絶対に自分は肉体労働しないだろうって思っていたんですよ、そんなに身体は強くないので。でも、今やっていますね笑 体力的にはきつくて毎日夜8時くらいには眠くなります。けど、心は疲れないです。

親方は「教科書にない酒造り」を知っている

親方は、全国のいろいろな蔵で酒造りをしてきた方なのですが、僕が村井醸造にくることにあわせて「じゃあ酒造りをおしえてやるか」っていうことで来てくれています。

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伊藤杜氏。岩手県花巻市在住。酒造りの家系に生まれ、19歳から酒造り一本。全国の蔵を渡りあるき、後進にその技術を伝えてきたそうです

(親方のお話です)
臼井くんは、なかなか真面目な男だね。もう今年くらいで私が手を離してやってもなんとかなるんじゃないかって思ってます。歳取った人たちは心配するんだけど、いやいや、やれるんだって。

酒造りってのは、ちゃんと本読んでやればできるんですよ。正解がのっているから。大事なのは、本から外れた時にどうするかってこと。

たとえばアルコールがでるはずなのに、ならない。そのときにどうしたらんば出てくるのか、これが本にはないんだよね。造りの途中で(発酵が)止まってしまったり、辛くなってしまったり、そうなったときにどうするかを、今私は教えています。

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親方って、作業の途中でなにかトラブルがあっても、全然慌てない。昔経験しているから対処も知っている。それはやっぱり、すごいと思います。

まあ、親方も作業の途中で忘れちゃったりして、それで起こるトラブルもあるんですけどね笑

酒造りの間、何かあったらすぐに親方のところに聞きにいっています。解決したら、戻って教本読んで、実際にやってみて違ったらまた聞きに行って、そういうのの繰り返しです。

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昨年、造りの期間中に、はじめて親方が長期間岩手に帰って、僕がもろみのタンクを2本管理することがありましたが、本当に心配でした。

仕事が終わって家に帰っても、心配なんですよ。忘れていることはないか、想定より冷えてしまわないかって、夢に見るようになってしまいました。

臼井さんが手がける新しいお酒「真上」

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村井醸造の新しい銘柄「真上」

「真上」は、昨年からつくり始めた、新しい商品です。「仕切り直しの商品」と言っています。

これまで村井醸造のお酒は、県外に向けて積極的に売るということをしていませんでした。それに地元では「お葬式の時に飲まれるお酒」というイメージだったんですね。でも僕はそれで終わるのはつまんなくって、お葬式も重要ですが、いろんな人に祝い事でも飲んでもらえるようになりたいじゃないですか。

社長を説得して、これまでのイメージを払拭する「仕切り直し」のお酒としてはじめたんです。

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ほら、営業用の車にも。名前は社長が「これまでの『真壁』の銘柄よりもよくしたい」「真壁の街をもりあげたい」という思いで命名したそうです。うしろの山の絵は筑波山、うちの蔵からみたときの形です。左の方が少し「もたっと」してるんですよ。

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本当、左が「もたっと」してます

お酒の設計は僕がやっています。親方も「君がやりなさい」って言ってくれました。世の中のお酒を調べながら、麹や酵母を考えたり…ええ、大変ですが、裁量が大きい仕事は楽しいです。

真上は「従」のお酒を目指している

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「真上」は、単体で主張するお酒ではなく、料理を引き立てるお酒になりたいと思っています。主従でいうと、従のお酒。酒屋さんからは「もっとキラキラした味が流行っている」など聞くのですが…これは僕の性格もあると思いますが、あまり目立つのが得意じゃなくって…

今は販路もないため、僕が自分で酒屋さんに営業にまわったり、配達したりですね。でも造りが始まると…正直いって首が回らなくなっています。仕込み現場では社員は僕一人で、しかも一番年下というのもあって、どうしても全部自分で動かなきゃって思ってしまうんですよね。

ほら、SNSなどで、若い人の多い蔵の楽しそうな投稿があるじゃないですか。ああいうの見ると「いいなぁ〜」って思うことはあります。その一方で、自分の考えでいろいろ動ける今の環境が合っているのかも、という気もしています。

「親心」のある酒造りをしてほしい

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(再び親方)
ーー臼井さんに、どう育ってほしいですか?

好まれるお酒を造る人になれば、申し分ないです。
酒は子どもと同じだってんだから。風邪をひいたり、吐き出したりして、何をしてもだめだってときもあるけど、そういうことにつきあう親心が、酒にもあればいい。必ずしも「日本一になれ」ってわけでもない。杜氏にもいろいろな形があるんだから。

あとは、酒造りは絶対にひとりじゃあできない。今は臼井くんは自分で作って、配達もしている。それをこれからも続けられるかは考えなければいけない。

まあ、杜氏としていうならば、私よりいい杜氏になってもらえれば、それで満足です。

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今後杜氏を目指すか…ですか?

一応、今は南部杜氏の協会に属していて「頭」の役職で入っているんですよ。「頭」はあの、会費は低いけど、杜氏と同じレベルのポイントがもらえるので。

ーーポイント?

ええ、杜氏ってポイント制なんですよ。役職ごとにもらえる経験値のポイントかたまると杜氏試験を受けられるっていう。でも…いまほとんど一人でやってしまっているので、これから試験などどうしようかなと思っています。

まあ、いろいろありますが、
お酒業界にはいってみて、身体はきついけど心は元気です。
職人には定年もありませんし、ずっと、楽しくやっていたいです。


ーー臼井さん、ありがとうございました。
真上、落ち着いた綺麗な味わいながら、つまみと合わせると一気に美味しさが増します。ゆるゆると晩酌したい人に特におすすめです。

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もちろん、お酒を飲みます。