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【郷愁酒場】西荻窪「豪」で、感傷を肴に飲む。好きだった酒場に里帰りしよう

里帰りの醍醐味は「ズレ」にあると思います。
久しぶりに帰って地元の人と飲んだりすると、懐かしい思い出が甦るとともに、昔と違う「ズレ」を感じる瞬間があるもの。向こうが変わったのかこっちが変わったのか。ズレによる若干の寂しさが、里帰り特有の情感。

そしてそれは「酒場」にもいえます。かつて通っていたけれど理由あって足が遠のき、久しぶりに訪れた(=酒場帰り)ときに感じる、独特の魅力。自分にとってそんな楽しみのできる酒場を、「郷愁酒場」と呼ぶことにします。

今年は里帰りを見送ったため、代わりに懐かしの酒場にいきました。

やきとん 豪

久しぶりに訪れました。西荻窪徒歩5分。

店主の豪さん。多分です。周囲のお客さんが「ゴウさん、ゴウさん」と呼んでいるので、店名と同じく「豪さん」だと思ってます。

まずはホッピーとカブ。社会人になって関東にきた僕がホッピーを覚えたのは、豪です。

ちなみに僕はいまでこそ「日本酒好き」と言ってますが、30歳手前まで金宮こそが至高だと思ってました。濃くて酔える濃度のホッピーと新鮮なモツ(特にレバー!)があれば何もいらない。

実はこの西荻窪の「豪」は2号店。1号店は中野にあります。

10年ほど前、中野の新井付近に住んでいた僕は、駅から自宅までの道にできた「豪」1号店に訪れるようになりました。カウンター数席だけの本当に小さなお店でした。満席のときは道端に椅子を出してそこでホッピー飲みました。

(プリプリのレバー)

豪はやきとんがとにかくおいしいのです。味付けはお任せ。1本ずつ味つけを変えてくれます。タレ・塩の2択ではなく、醤油とか、胡麻塩とか、ネギ胡麻とか豊富。120円なのに、1皿ずつ出してくれます。

(そういえば、いつか訪れたときはアルバイトの留学生の人が「クミンを広めたい」と話しており、串も「クミン味」だったこともあります)

話を戻すと、数年後に僕は中野から三鷹に引っ越し、豪に訪れることも少なくなりました。しかしほぼ同時に、三鷹にわりと近い西荻窪に2号店(つまりここ)が開店し、店主の豪さんもより広い2号店に基本いるように。

中野のころより回数は減りましたが、定期的におじゃましていました。

(焼き刺、ハーフ。レバーのみで注文)

こちらが荻窪店ができてから名物になった「焼き刺」。自分で焼いて食べるもので、たっぷりのネギとニンニク、ごま油(塩を溶いて)をつけていただきます。ちょうどその前後、豚肉の生食の規制が厳しくなった背景もあります。

(ちゃんと火を通すのがルール)

西荻窪の2号店は、カウンターだけの1号店に比べて急に座席も増えて、混雑時はめちゃくちゃ忙しそうでした。かと思えばふらりと訪れた時にガラガラ空いていて、勝手に「大丈夫か…」とか思ったりして、ついでにもういっぱい飲んだりしました。

(ホッピーおかわり)

ホッピーの中をおかわりすると、ポンプみたいなので注いでくれるんです。豪さんがついでくれるときは何故か異様に焼酎の量が多い気がしてました。今日はそれも一律。普通のことなのに、「変わっちゃったな」と、なぜか勝手な気分になります。

豪は、串は抜群に美味しいのですが、「おすすめ」にある創作系メニューも美味しいのです。

西荻窪店ができて1-2年くらいでしょうか、テレビに取り上げられたらしく、一躍に人気店へ。週末訪れると満席、ということも出てきました。むりやりカウンターの端に入れてもらうと、アルバイトの方が「はじめてこの隙間(狭いスペース)にまで人が座りました」と盛況ぶりに驚いていました。
と、大将の豪さんは「ついこの間まではガラガラだったのが嘘みたいですね」笑顔。うれしい半面、これも勝手な感傷を覚えました。

軟骨刺し。しっかりニンニクがあり、うまいです。箸もグラスもガシガシと進みます。

と、そのあたりで僕が中央線沿線から離れた場所に引っ越し、豪はいよいよ「ふらりと立ち寄れる場所」ではなく「わざわざ行く場所」になりました。

同時に、僕の嗜好も年齢とともに「焼酎→日本酒」「肉→魚」へとゆるやかに移っていきました。味覚って本当に変わるんですね。おじさんたちが言っていたことは本当でした。

わざわざ「帰る」という郷愁酒場の味わい方

(バイスです。バイスも豪で存在を知りました。季節限定で自家製バイスもあったのですが、今もあるのでしょうか)

現在は半年に1度くらい、吉祥寺あたりに用事がある時に立ち寄ります。というか、本当は豪のために吉祥寺周辺で予定をつくってます。

以前の「ふらっといつでもおいしい豪」とは、もちろん違います。まずこちらの意気込みが違うので、できるだけいろいろ食べようとする。

そうして意気込んでお店を堪能していると「これこれ」と「変わったな」が同じくらい感じられます。

日本酒メニューなんて、昔は店名に因んだ「豪快」くらいしかなかったのに、すっかり人気銘柄まで置くようになってました。でもせっかくなので「豪快」を頼みます。

熱燗。とっくりが持てないくらい熱い。なんならふつふつしている。でも、これがおいしいんです。「豪」だからこれがいい。

最初に訪れたのが10年前とすると(詳しくは覚えてないですが)、例えば大学進学で地元を離れた人(18歳)が社会人の少しおじさんになって(28歳)帰ってきたくらいでしょうか。懐かしさもありつつも「ズレ」もあります。

(小池都知事の会見をみんなでながめます)

ちなみにここはタバコOK。店員さんもタバコ普通に吸う。これがいいです。僕、この10年でタバコやめたんですよ。

昔行っていたときは仕事終わりが多く、ラストオーダーぎりぎりに入ってまとめて頼んで飲むことがありました。いまは逆、夕方6時くらいにいって、テレビに流れる夜のニュースとかぼーっと見ながらのむ。楽しみ方も変わります。

(コーヒーの缶をそのまま串入れにするスタイル。これは多分変わらず)

20代から30代に渡って通った豪。お店も、飲み方も、社会も、そして自分もいろいろ変わっていることで生じる懐かしさと、ズレによる感傷。その波にたっぷり浸るのは、これもまたいい酒の肴になるものです。気がついたら飲み過ぎていたので。


かつて、たまたま豪を見つけて、通った自分をほめたいです。
ごちそうさまでした。僕にとっての唯一の郷愁酒場、またときたま顔を出しにいきますね。

(ん?)

豚の場合「焼きたて」の代わりに「つぶしたて」というのですね。今初めて知りました。

もちろん、お酒を飲みます。