【推薦の居酒屋】さけとギャラリー晴陽(経堂)。日本鹿と日本酒の熱燗で無限にいける
「いい日本酒は、翌日のこらない」──そんな、お酒好きな人の間にだけ通じる言葉があります。
もうひとつ、熱燗好きな人の間でだけ言われている「うまい熱燗も、残らない」という言葉もあります。同じ酒、同じアルコードを摂取しても、熱燗は酔い方や残り方が違うというのです。
熱燗がおいしくなる季節、プロがつけるうまい熱燗を、たらふく飲むことにしました。お店は、地酒専門店「つきや酒店」さんがと推薦してくれた、経堂駅近くの「晴陽(はるひ)」さんです。
「お通し」に熱燗がでてくる、熱燗好きにはたまらないお店でした。
(教えていただいたつきや酒店さんの紹介記事です)
「お通し」に「燗」が出てくる熱燗推しの店へ
小田急線、経堂駅から徒歩5分ほど。個人商店の並ぶ通りの入り口に「晴陽」はあります。ぱっと見は小さくてナチュラル系統のバーといった感じです。なので日本酒よりもナチュールワインとかそっちの雰囲気。
こちらが店内。カウンター+αのちいさなお店です。コンパクトゆえに撮影できないほど。そして並ぶお酒は……
渋いです。めちゃくちゃ渋いです。すっきりやフルーティー系はほぼなく、どっしりがっつり、熱燗でおいしくなるものしかありません(冷蔵庫には冷たいお酒やワインもあります)
こちらが店主で「燗付け師」の大内さんです。2021年にオープンした比較的新しいお店とのこと。メニューは次の写真。名物は「鹿肉」です。
ひととおり説明をしていただき、おすすめの「晴陽セット(3300円)」(前菜、おつまみ、メイン)にお願いします。
今回、はじめてお店にお邪魔したこともあり、最初の料理を用意する間に大内さんと少し会話を(どちらご出身ですか、どんなお酒が好みですか、など)したのですが、すると「●●●がお好みでしたら下北の●●●にぜひ行ってみてください!」「福岡御出身?いいお店ご紹介しますよ!」と、なぜか他のお店を紹介してくれます。まだ晴陽のお酒一杯も飲んでいないのに。
自分のお店の話以上に、他の店をおすすめしてくれるお店は(個人調べで)間違いないです。勝手に期待が高まります。
地味、それゆえ熱燗がはまる前菜セット
こちらがセットの前菜盛り合わせ。右下にある液体は、熱燗。晴陽では「お通し燗」といい、最初の料理とともに必ず「熱燗」がでてくるそうです。
これまで、最初はビールで、徐々に日本酒に移るパターンが多かったです。中でも熱燗は、中盤戦以降のお酒だと思っていました。
──「お通し燗」、いいです。ほどよくぬるめの温度で、すっと染み込みます。決してわかりやすい味(甘い、フルーティーなど)ではないのですが、一気にそっち(熱燗の世界)に連れて行かれます、舌が。
注文した「おまかせ熱燗」もやってきました。私は福岡出身ということで、福岡のお酒の「独楽蔵」(こまぐら)です。
開封後8ヶ月放置酒。熱燗に向くお酒は、開栓直後は「閉じて」いることが多いそうで、晴陽ではすぐに開栓して放置し、味がのってくるまで待っているそうです。「開けたてこそ史上」という冷たい日本酒とは逆の考えです。
ここで、改めて前菜へ
手前が「こんにゃく刺身・きゅうり糠漬け」「豆腐」、奥が「トマト・ナス・ケッパーのペンネ」、「野菜のおひたし、油揚げ」の4品です。
見た目は、地味です。実際、味も「わぁおいし!!」というものではなく、じわじわと口の中で「滋味」とか「苦味」「旨味」などが滲み出てくるものばかり。こういうのが、熱燗にはいいです。
がっしりしたお酒が多い島根の中でも、特にパワフルな「玉櫻」。きゅうりの糠漬けと合わせると止まらなくなります。香りも味も、シンプルなおいしさではない「くせ」みたいなのがあって、その重なりがいい。
熱燗を好きになると、だんだんと「もっと癖がほしい、もっと臭いのがほしい」となってきます。味覚って不思議です。
スピードタイプの若き燗付け師
熱燗のお店の楽しみのひとつが、プロの燗付けの所作を眺めながらお酒を飲むことですが、店主の大内さんは「僕は、燗付け師の界隈でもスピードタイプです。そのとき食べている料理と合わせたくて注文していただいていると思いますので、タイミングを逃さないように」とのこと。
確かに、はやいです。どんどん出てきます。
ちなみに、僕の知る限り燗付け師には
じっくりタイプ(温度上昇をゆるやかにしてまろやかに仕上げる)
いじりまわすタイプ(高温にしてから水で冷却するなど、いろいろする)
エンタメタイプ(温めなながら別のお酒とミックスしたりと、とにかく自由)
などが存在しています。
そして「スピードタイプ」は、「じっくりタイプ」より味がトゲトゲするという人もいますが、晴陽の熱燗は、全然そんなことありません。もちろん「超まろやか」というわけではありません。苦味も雑味も、いろいろな味がしっかり広がります。
でも、その「いろいろな味」が、滋味深いつまみにはまるのです。
また、大内さんは燗付け師の中でも「温度計で目視するタイプ」とのこと。熱燗の世界には「香りでとる(=温度を感じる)」という伝統的な流派もあるのですが、「0.5度単位で調整するには、温度計がベストです。このくらいの細かさだと体調で感じ方が変わるので」と大内さんは言います。
さらに、「とっくりに注ぐ時、おちょこに注ぐ時などに、3度ずつくらい下がるんですよ。だからこそ提供のタイミングでしっかり狙った温度にしなければいけません。ある意味(温度計から)目が離せないタイプの燗ですね」(大内さん)
ニュータイプ燗付け師。かっこいいです。
1時間かけて仕上げる「日本鹿」でさらにお酒が進む
そして晴陽セットのメイン「日本鹿プレート」。1時間かけてじっくり焼いています。
「肉汁を落とさない方法を突き詰めていった結果、1時間じっくり焼くことがに辿り着きました。少し火を通して、休ませて、また火を通して、休ませて。提供まで時間がかかってしまうので、お客さんには先に次の予定がないかを聞くようにしています」(大内さん)。
濃厚な肉の味の塊です。食欲と酒欲がさらに増幅します。テキストでおいしさのすごさを書けないので、先ほどの肉の写真をぜひ眺めてください。
おいしい熱燗は、翌日わかる
語弊をおそれずいうと、晴陽の料理とお酒は、過度に「おいしすぎない」のがいいのです。口がびっくりしない、安心する、その上で止まらなくなる。
なんだろう、おいしさとは別の、ともすれば雑味にもなりかねないいろいろな要素がごちゃっとなる、「滋味」としか形容できない味の重なりがよいのです。
気がつくと、6合くらいひとりで飲んでいました。おいしかった。
そして翌日。
すごい、本当に残っていない。むしろすっきりです。「いい熱燗は翌日に残らない」。この結果を信じて、今年の冬はいろいろな熱燗を楽しみます。
晴陽さん、ごちそうさまでした!またお邪魔します!
もちろん、お酒を飲みます。